トワノクウ
第十一夜 羽根の幻痛(三)
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倒的な奔流が体内で暴れて、背中の皮を突き破って出てきてしまいそうな錯覚。背骨が軋んでいる。膝を屈してしまいそうだ。痛みは少ないが、痛みがないままに体が裂けてしまいそうな恐怖がある。
顔を上げれば、無数の目。無数の人。
(見ないで。見ないで。見ないで!)
群衆の視線という暴力にさらされたプレッシャーがピークに達した瞬間、背中がばきっと砕けた、ような気がした。
くうは衝撃に思わず膝を突いた。背中が内側から盛り上がっているのが分かる。痛くはない。それが怖い。
「……潤、くん……薫ちゃ、ん……っ」
助けを求めて呼んだ友の名に反応してか、二人分の足音が、俯いたくうの耳に届いた。ああ、ふたりとも、来てくれるんだ。よかった。うれしい。ありがとう。
――だが、間に合わなかった。
砕けて飛び散った。そんな感じ。それと、バサッという大きなものが開く音。――それらをくうは呆然と五感に受理していた。
視界に、人間の肉体には本来あるはずのないものが、飛び込んだ。くうは破れた着物を片手で押さえ、余った手でそれを辿る。背中に行きついた。
白の粋を極めた真白の、翼。
くうは言葉もなく自らの背中から顕れたそれを撫でる。羽毛の柔らかさと高めの体温を手の平に感じる。ハリボテでも幻覚でもなく、これはまぎれもなくくう自身の体器官だ。
「妖……」
誰かが呟いた。
それを合図にしたように、巫女が一斉にくうに武器を向ける。己に向いた薙刀の鈍い輝きや、今すぐにでも放てる矢の緊迫感。数は二十を超えようか。斉射されたら大怪我ではすまない。
どうして。くうは何もしていない。くう自身、何故この翼が自分にあるのか知らない。これが何か教えてほしいのはくうのほうだ。
くうはつい助けを求めて級友を顧みる。
「潤く」
答は、敵意のこもったまなざしと銃口だった。
「――ぇ、なんで……?」
引き攣った口から間抜けな声が出る。
「どこで人間やめたか知らないが、妖なら神社と姫の敵だ。悪く思うなよ。恨むなら妖の自分を恨め。――銀朱様、御前を汚します」
「よしなに。神域に踏み入った罪、きっちり償わせなさい」
銀朱は何の動揺もなく、潤にくうを処分≠キる許可を出した。
(潤君、庇って、くれない?)
――さっき感じた不安のかけら。潤の弁護はくうが人間であることに立脚していた。ならば、くうが妖であったなら?
これが答えだ。
足元から黒いもやが這い上がってくる。脳が昏いものに侵されていく。目眩がする。倒れたい。全部
悪い夢にしてしまいたい。
「薫ちゃ……っ」
一歩を踏みきる前に、爪先にトカゲが変化した細長い鞭が叩きつけられた。
薫には潤のよ
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