トワノクウ
第十一夜 羽根の幻痛(二)
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た。いつか楽研のステージで急に彼のサックスの調子がおかしくなったときのように、潤の集中が乱れたのが、背中からでさえ伝わった。
傷ついた潤をこのまま放っておくことが、くうにはどうしてもできず、くうはぐいっと潤の腕を後ろから引っ張った。
「篠ノ女……?」
貴方が何に傷ついたかは分からないけれど、きっと貴方が悪いわけではないから。その気持ちが伝わるように見つめる。きっちりと視線が交わってから、くうは一つ肯いて梵天に向き直った。
「貴方が用があるのは私でしょう? 場外乱闘しないでください」
梵天は「だとさ」と空五倍子を笑う。空五倍子がやはり体躯に似合わぬ愛嬌で、はたとするのも置いて、梵天はくうに対して感心を示す。割り込んだくうの勇気を評価されたらしい。
「用件を一番におっしゃってくださればよかったのに。いきなり世界観の説明をなさったり、お父さんとお母さんの影をちらつかせたり、回りくどいことをされなくてもよかったんですよ。くうがそんな、人様の頼み事を聞きもせず断るような娘だと思われていたなら残念です。頭やわらかくして出直してこいってんです。そしたら私も一緒にどこへでもお付き合いしましたのに」
するとここで、梵天はひどく虚を突かれたような表情を浮かべた。部屋のずっと奥から本人も忘れていたアルバムを見つけたような貌だ。
くうの台詞に失礼や失敗でもあったのかと心配していたが、梵天はくうには何も言わずに苦笑しただけだった。
「いいだろう。君の流儀に合わせよう。――今ここで俺に付いて来なければ、このあとの坂守神社、特に当代姫巫女の追求は苛烈を極める。君の身の安全のためにもここで俺の手を取ることを勧めるよ、篠ノ女空」
「貴方と会ったから責められる、という見方もできます」
そこで梵天は潤を見やり、またくうに視線を戻した。
「とんでもない。これは俺の滅多にないサービスだ。このままでいればやっぱり君は神社に酷な待遇を強いられる。早い内に離れるべきだ」
核心に触れない持って回った言い方に非難の声を上げかけて、くうははたと息を呑んだ。
(潤君がいるから、私と潤君の関係に不利になることを言わないでくれているとしたら? もしそうだとしたら、私が神社にいると危なくなる理由なんて、一つしかないじゃないですか)
同行を断るつもりでいたが、雲行きが怪しくなってきた。高校進学を決意した日以来の激しい迷いに、くうは喘ぐようにただ梵天を見上げるしかできなかった。
すると、今度は潤がくうの腕を後ろから引いた。交わる視線に
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