第六話、月村
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りだったが、内装は清潔感溢れる白だった。しかし、やはり広い。こんな広い空間にいるのが、取り敢えず隅っこに座った俺と運転席に座るファリンさんの二人とは、とてつもなく虚しく感じる。
「はぁ…」
溜息をついて、益体もない考えを放棄する。
これからフェイトとアルフがこちらに来くれば、本格的なジュエルシードの探索を始めることになる。
今俺が考えるべきは、どう探索を行っていくべきかと、最悪の状況の二つだ。
浮ついた思考は全て捨て去れ。常に最悪を想定し、数多の可能性から成功を掴み取る。
恐ろしい程覚め切った思考に自分でも驚くが、むしろ、これぐらいの方が丁度いい。俺の目的はあくまでジュエルシードの回収。この世界には、観光に来たわけじゃないんだから。
「いらっしゃい、ラウル君」
「お邪魔します、忍さん」
屋敷についた時にはもう七時を回っていた。少し屋敷内が慌ただしいのは、忍さんの妹のすずかが登校するための準備をしているからか。
「そういえば、ラウル君はすずかとあまり話したことがないのよね?」
「そうですね、以前、ここに来た時に一言二言くらいしか話していません」
「んー…じゃあ、今度会った時でもいいから挨拶してあげてちょうだい」
「ええ、是非」
俺の返答にニコリと微笑んで、忍さんがテーブルに置いたのは四つのカード。
「取り敢えず、これが国籍とそれに伴う住民票よ。それは必要なものだから、しっかり持っておきなさい」
「ええ、本当に助かります。この借りは、必ず返します」
「そんな真剣に考えなくてもいいわよ。『人命救助』なのでしょう? なら、サービスよサービス」
「……本当に、ありがとうございます」
そうは言うが、なにかしないと俺の気が収まらない。まあ、今はいいと解釈して、いつか返すとしよう。
「…それじゃあ、少し忙しそうなのでこれで失礼します。あ、見送りは結構ですよ。ここの間取りは完璧に思い出しましたから」
「そう? なら、お言葉に甘えさせてもらうわね」
そう言って、忍さんはコンピュータの画面に目を移した。恐らく、仕事か何かだろう。ここにいては邪魔になる、早々に帰るとしようか。
「…ふぅ。さて、あいつらが来るまでなにをしていようか」
月村家を後にして、俺は通勤通学で賑わう道を公園から遠目に見ていた。多くの人達が忙しそうに先を急ぐ中には、中良さげに手を繋いで歩いている親子の姿もある。その幸せそうな姿に、フェイトとプレシアの姿が重なった。
「…アリシアが目を覚ました後も、プレシアはうまくできるだろうな。あの人は本当に優しいから」
なら、もうそこに俺の居場所はないのだろう。
ジュエルシード
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