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トワノクウ
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第三十夜 冬ざれ木立(二)
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「真朱、さん」

 そこにいたのは、西洋ドレス姿で、息を切らした篠ノ女空だった。

 互いに互いの存在に驚いている。だが真朱は急いで驚きを隠した。妖に巫女が恐れを抱いたなど悟られるわけにはいかなかった。そう、思っているのに。

 篠ノ女空の瞳が、あまりに()()()()だったから。

「その曲は彼岸にしかない曲です。どうして貴方が知ってるんですか」
「じゅ、潤朱が教えてくれたんだもん!」

 くうは蒼白になる。真朱の心の暗い部分が快哉を上げた。


 ――ねえ、お前は知らないでしょう? 私と兄様が潤朱とどれだけ幸福な時間を積み重ねてきたか。お前なんか及びもつかないくらいに、私も兄様も潤朱に大切にしてもらったのよ――と。


「出てって。ここは神聖な坂守神社。妖がいていい場所じゃないんだから」

 勝ち誇るはずだった。だが、くうは全く、一切合財、これっぽっちも堪えなかった。

「――何も知らないんですね、あなた。妖の真実も、潤君のホントウの気持ちも」

 哀れみさえ含んだ視線を浴びせられた。
 真朱は人生でおそらく最速で激昂した。

「知ってるわ! どうせお前が何かしたのでしょう!? 彼岸人だからって潤朱をたぶらかして……でなきゃ兄様や潤朱があんなことで死ぬわけない! 兄様達はどんな大妖にも負けないくらい強かったんだもん! 賤しい妖……許さない!」

 真朱は巫女服の袖に手を入れた。真朱の虎の子の札がある。かつて坂守神社を辞した、姉のように慕っていた巫女長が使っていたものだ。

(真朱、がんばるから。だから真朱に力をちょうだい、鶴梅)




「賤しい妖……許さない!」

 真朱は袖から符を取り出すや、くうに放った。符はくうの、薄い影に貼りつく。
 すると、その影がスライムのように起き上がり、うねって形を成し始めた。くうは驚いて立ちすくむ。

「己の影に捕われなさい! 抵抗は無駄よ。そいつに傷をつければそっくりそのまま己に帰るんだから!」

 黒い塊が着色されてゆく。金のような赤は、踊り狂う炎へと姿を変えてゆく。くうの目には、炎は黒い鉄で出来たいびつな鳥の翼のように見えた

(これが、白鳳)

 炎の群れはくうを標的としていた。
 炎が管を巻き、逃げようとしたくうに絡みついた。

「きゃああああああああああああっっっ!!!!」

 焼けて焦げる。溶けて崩れる。
 痛いより、皮膚が乾いて、どろどろになった細胞が眼窩から、毛穴から流れる感触がおぞましい。

 どさ、じゃら。玉砂利の上に投げ出される頃には、もうくうの(たい)は原型を取り戻しつつあった。

 ――拷問だ。あれほどの苦痛を味わっても死は許されない。

「う……ふ
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