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水の国の王は転生者
第九十六話 それぞれの野心
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しないと言われている北花壇騎士団を秘密警察の様に使い、独自の諜報網の構築と、反乱分子を一切の慈悲もない大虐殺を行ってガリア王の信任を得た。
 一般的なガリア貴族は、王都を守る花壇騎士団を治安維持ごときに使うジョセフを批判し、一般市民は、ちょっとでも王国に対し否定的な事を口に出せば、数日後には一家諸共消える事に、言い知れぬ恐怖を感じ、誰もが口をつぐんだ。

 一般市民にとっては、ジョゼフの治安維持政策は恐怖政治以外の何物でもなかったが、視点を変えれば、大量の危険人物を検挙し、曲りなりにも結果を出したジョゼフのガリア王の覚えは良かった。

 シャルルは、自分が知らぬ位置にジョゼフが剛腕ぶりを発揮している夢にも思わず、先ほどの会談でガリア王の口からを聞かされた時は、凄まじい衝撃を受けた。

「流石は兄さん。私には絶対に出来ないような事を平然とやってのける……」

 魔法が一切使えないジョゼフは、他のガリア貴族から『無能』と言われ、大いに軽蔑を受けていたが、シャルルは前々からジョゼフの能力を認めていただけに、今回の会談で以前から燻っていた焦りが形になって表れた。

「このままではいけない。このままでは兄さんに勝てない……彼にも勝てない!」

 実のところ、シャルルの焦りは隣国トリステインのマクシミリアン王が王子時代、11歳でスクウェアに到達した事を聞いてから、薄い染みの様に出来たのが始まりだった。
 マクシミリアンが現れるまで、『魔法の天才』の座はシャルルの物であり、シャルル自身、魔法の天才という名声を最大限に利用してガリア政界に『シャルル派』と呼ばれるガリアを二分するような巨大な派閥を形成していた。
 シャルルは父であるガリア王や無能を揶揄されるジョゼフを立てて、表面上は王座に興味がないように演技しながら、父から次期ガリア王に推薦してもらおうと、『良い子』を演じていた。
 シャルル自身、元々は良識派の人間で、演技などしなくても十分に優しい貴族であり、優しい父親だったため、魔法の天才の名声と合わさって、シャルルを慕い、次期ガリア王に推す声は日に日に高まって行った。

 だがマクシミリアンが頭角を現し、『魔法の天才』の座がシャルルのもの出なくなった噂がガリアで囁かれるようになるとシャルルに余裕が無くなってきた。

 公の場などでは、他の者に自分が焦っていることを悟られないように振る舞い、それは成功していたが、一人になると途端にネガティブな思考が頭の中を占拠するようになり、愛する家族に悟られないように、部屋に籠って一人悩むことが多くなった。

「……どうする? マクシミリアン王に協力を仰いで、ガリアの改革を断行しようか」

 そうすれば、ガリアの国力が増し、ガリアもトリステインの様に飢えて死ぬ者は極端に少なくなるだろう。

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