第六話
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た。
目で見なければ自分の手が本当に錬金鋼を握っているか確信が持てないほどだ。
それでも、自分の役目を果たすために。
自らが思う武芸者で有るために。
いつか夢見た、憧れの場所に手を伸ばすために。
けれどその地平の彼方にいる自分への憤りと不甲斐なさが嫌で、少しでも拭いたくて。
敵の前で、仲間の前で終わらせぬまま倒れるわけにはいかなった。
静かに溜め続けた剄を起爆する撃鉄を心の中で起こし、ニーナは前の敵を見る。
動けず声を出すことも出来ぬまま叫び続ける獣を見つめる。
「悪いな」
撃鉄を叩きニーナは鉄鞭を雌性体の頭へと振り下ろした。
武芸者たちがいる場所から離れた外縁部にレイフォンは戻っていた。
伝えられた情報によれば雌性体はニーナたちが殺し、幼生体も体勢を整え直した武芸者たちによって次第に駆逐されつつあるようだ。
もうじき間もなく全てを殺しきるだろう。それでツェルニの勝ちだ。
じき、シェルターに避難した人達も外に出てくるだろう。
役目を終えたメットを外す。澱んでいた空気が新鮮な風に流されて顔を柔らかく撫でる。
途端、服に付着した汚染獣の体液の臭気が鼻に刺さる。
懐かしさを覚えもする異臭にレイフォンは眉を顰めているとくっついていた端子が外れて浮かぶ。
『会長さんから伝言です。「ご苦労さま。表立ってはできないが都市を代表して礼を言うよ。謝礼に関しては後日」です』
「僕の方からは後のことは頼みますと会長にお願いします」
『はい、了解です。それとせめて私からも君に感謝の言葉を。ありがとう。そしてお疲れ様でした』
クルンと羽を思わせる端子が一度回る。
『私はそろそろ隊の人たちの方へ戻ります。暫く端子は残すから返事は出来ないけど何かあれば』
それを最後に端子からの声が止まる。
レイフォンはメットを手の中で遊ばせる。錬金鋼の刃引きのためにハーレイの所へ戻るべきだろうか。だがハーレイが今現在手空きだとも限らない。
もう一度別の場所に、というのも面倒だろう。これは後日でも構わない事だ。
問題は汚れた服だ。汚染獣の体液だけならカリアンの部屋か執務室に投げ込んでもいいが付着している汚染物質を除去しなければならない。
出来るだけ触れないように脱ぎ、近くの隅に置く。後で回収して貰えばいいだろう。
データを送った事を示すように浮かぶ端子が少しだけ光を強め小さく揺れ動く。
ふと、武芸者たちがいるだろう方へレイフォンは視線を向ける。
まだ幼生体が残っているということはクラリーベルは未だそこにいるのだろう。
待つべきか。或いは手伝うべきか。
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