第百七十話 信長と信玄その五
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「そろそろ上杉も動くが」
「徳川殿は上杉攻めに加わろうと言われるかと」
林が信長に懸念する顔で言ってきた。
「あの方は律儀者故に」
「そうじゃ、律儀なのはよいが」
「ご自身のことを捨てられてもですから」
「律儀に過ぎる」
そのあまりにも強い律儀故にというのだ。
「だからな」
「はい、何としましても」
「上杉との戦では休んでもらう」
そうしてもらうというのだ、家康については。
「その軍もな」
「あまりにも受けた傷が大きいですな」
安藤は徳川軍の三方ヶ原での敗北から言った。
「一万二千のうちの三千ですから」
「痛いわ」
かなりやられたというのだ。
「だからじゃ」
「はい、ここは」
「休んでもらう、今の徳川軍が上杉に当たれぬ」
これは到底だというのだ。
「上杉謙信もまた恐ろしい者だからのう」
「越後の軍神ですな」
何とだ、ここで言ったのは松永だった。彼が言うと織田家の殆どの者が顔色を変える。相変わらずの状況である。
「あの御仁と戦うには武田と同じく相当な覚悟が必要です」
「上杉にも数で勝てぬ」
武田と同じく、というのだ。
「だからじゃ」
「傷ついた徳川殿に出てもらう訳にはいきませぬな」
「出たら今度こそ命がないわ」
家康も十六将も折角生き残った兵達もというのだ。
「竹千代達に死んでもらっては困る」
「だからこそ」
「暫く休んでもらう」
絶対にというのだ。
「それでよいな」
「その通りかと」
松永は信長の言葉に笑顔で頷いてみせた。
「殿が仰る様に」
「そういうことじゃ、竹千代はな
彼はというと。
「また働いてもらうわ」
「その時に」
「雪辱じゃな」
「その時は必ず来る」
だからだというのだ。
「今はゆっくりと休んでもらう」
「では殿」
柴田が不敵な笑みで言ってきた。
「今より徳川殿の仇討ちですな」
「そうじゃ、その意気じゃ」
信長も柴田に応えて言う。
「権六、よくぞ言うたな」
「ははっ、それでは」
「三河口で陣を敷くぞ」
まずはそこまで行くというのだ。
「ではいいな」
「はい、それでは」
「まずは」
織田家の諸将も頷いてだ、そのうえで。
織田軍はまずは三河口まで来た、そしてそこで陣を敷いた、その陣はというと。
横に長い陣だった、十五万の大軍をずらりと並べていた。
そこにだ、その横陣の前に鉄砲隊も並べていた。氏家はその整った陣を見て不破と稲葉にこう言うのだった。
「敷いてみたがな、殿のお言葉通り」
「うむ、この様な長い陣はな」
「見たことはないぞ」
不破と稲葉もこう氏家に応える。
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