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戦国異伝
第百七十話 信長と信玄その四

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「見事じゃな」
「さすが三河者ですな」
「三河武士です」
「勇があるわ」
 こう言って感心するのだった。
「実にな」
「ですな、まことに」
「あの者達は」
「羨ましくもあるのう」
 信長は笑ってこうも言った。
「実際な」
「我等はどうも」
「兵は弱いですからな」
「数は多いですが」
「それでも」
「そうじゃ、織田の兵は弱い」
 このことは信長が最もよくわかっていることだ、とかく織田の兵は弱い。
「徳川の兵と比べてもな」
「ですな、ですか」
「武田とどう戦うか」
「それがですな」
「問題ですな」
「うむ、その通りじゃ」
 それでだとだ、信長は諸将に言ったのだった。
「武田との戦では間違っても前には出ぬ」
「攻めませぬか」
「それはしませぬか」
「攻めて勝てる相手ではない」
 武田にはというのだ。
「武田の兵の強さは我等の兵の強さの比ではないわ」
「数はこちらが三倍を越えていますが」
 ここで蒲生が言ってきた。
「それでもですな」
「うむ、攻めては勝てぬ」
 武田にはというのだ。
「馬の数も騎馬隊の数もこちらが多いが」
「武田の騎馬隊は別格ですぞ」
 今度言ってきたのは前田だった、強い顔で。
「流石にあの者達とぶつかると」
「戦えるのは上杉だけじゃ」
 彼等だけだというのだ、武田とりわけ騎馬隊と正面から戦って五分に渡り合える者達はというのである。
「他の者はな」
「到底ですな」
「数は大事じゃ」
 だからこそ常に数を揃えている、信長自身の言葉だ。
「しかしじゃ」
「数に驕ってはなりませぬな」
「驕れば負ける」
 何事にもというのだ。
「だからじゃ」
「それに驕らずに」
「うむ、戦う」
「では殿」
 今度は明智が言ってきた。
「この度は手筈通り」
「そうじゃ、手筈通りいく」
 信長はこうその明智に返した。
「わかっているな」
「はい、わかりました」
「さて、三河口じゃな」
 信長は今度は場所の名前を話に出した。
「あそこに入ればじゃ」
「そこで、ですな」
「我等は」
「陣を敷くぞ」
 こう諸将に告げたのだった。
「手筈通りな」
「畏まりました」
「それでは」
「それと戦の後でじゃ」
 信長は彼等の戦のことからだ、再び彼のことを話した。
「竹千代じゃがな」
「徳川殿ですか」
「あの方ですか」
「動かぬ様に言っておかねば」
 ここはというのだ。
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