第百七十話 信長と信玄その二
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「それは誰も幕府に従わないからです」
「それが天下を乱れさせている」
「それ故に」
「私は戦っているのです」
毅然とした言葉だ、微塵の揺れもない。
その言葉と共にだった、謙信は家臣達に言った。
「ではこの馳走の後に」
「はい、出陣ですな」
「いよいよ」
「そうします、全てが整ってから」
そうしてからだというのだ。
「この城を出ましょう」
「殿、それでなのですが」
ここで直江が言ってきた。謙信が見出した若き漢である。
「織田信長ですが」
「そろそろですね」
「はい、先程武田軍が三方ヶ原で徳川軍を破ったと報がありました」
「そして徳川家康は」
「九死に一生を得たとのことです」
「左様ですか」
「ですが徳川軍の受けた傷が大きく」
それでだというのだ。
「暫くは動けぬかと」
「左様ですか」
「はい、とても」
そうだというのだ。
「今は」
「そうですか、では武田は」
「三河に向かっております」
東海道をそのまま上ってだというのだ。
「そうしています」
「わかりました、では三河口の辺りですね」
謙信は言った。
「あの地で蛟龍と虎が戦いますね」
「織田信長と武田信玄が」
「そうなりますか」
「はい、なります」
謙信ははっきりと答えた。
「間違いなく」
「三河口ですか」
「そこで両者が戦いますか」
「そしてです」
戦いの後についてもだ、謙信は言うのだった。
「両者は倒れません」
「織田も武田も」
「双方が」
「そうです、二人共です」
信長も信玄もだというのだ。
「まだ二人が運命を決する時ではありません」
「今はですか」
「その時ではありませんか」
「昨日夜空を見ました」
酒を飲みつつだ、城の縁側に座り梅干や塩を肴に酒を楽しむのが謙信の日課だ。謙信は昨日もそれを楽しんでいたのだ。
そしてだ、その場で見たというのだ。
「星を見たのですが」
「織田も武田もですか」
「彼等は」
「青い将星と赤い将星がありましたが」
どちらが誰かは言うまでもなかった。
「輝きを増していく一方でした」
「だからですか」
「織田も武田も倒れない」
「今はですか」
「両者は」
「星は人です」
人の運命、それを表しているというのだ。こうした星見は軍師の智だが謙信もまた身に着けているのである。
「星が落ちる時人は死ぬのです」
「だから両者はですか」
「次の戦では死にませぬか」
「まだ」
「では次の決戦の場で」
「そこまではわたくしは読み取れませんでした」
謙信でも、というのだ。
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