第百七十話 信長と信玄その一
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第百七十話 信長と信玄
謙信は二十五将と直江を自分の前に招いていた、するとそこには。
山海の珍味にこれでもかと盛られた飯、それに酒があった。皆それを見て言うのだった。
「おお、有り難い」
「これを食べよと申されるのですな」
「今よりは」
「そうです」
その通りだとだ、謙信も答える。
「これを全て食してです」
「そのうえで、ですな」
「出陣ですな」
「北陸を上ります」
そうするとだ、謙信は確かな声で諸将に告げた。
「そしておそらくは手取川のところで」
「戦ですな」
「織田家と」
「そうです、そうなります」
こう彼等に話すのだった。既に諸将はそれぞれの席に付馳走と酒、それに飯を楽しんでいる。謙信もその場で話している。
「我等が出陣しそのうえで」
「織田家ですな」
「いよいよ彼等と戦いますか」
「織田信長とも」
「あの御仁とも」
「織田信長は確かに優れた者です」
謙信は信長を認めていた、それでこう言うのだった。
「しかしです」
「それでもですな」
「あの御仁は」
「問題は公方様をないがしろにしていることです」
謙信から見ればそうなるのだ、信長は幕府を擁しながら義昭を立てず己の政を進めている者だというのである。
「ですから」
「それをですな」
「正すのですな」
「そうです」
それが為にだというのだ。
「私は織田信長を、そして天下を正す為に出陣します」
「それで殿」
宇佐美がここで謙信に言ってきた。
「公方様ですが」
「はい、文ですね」
「それを送ってこられていますね」
「織田信長を討てと」
「しかし討たれることは」
「しません」
それは決してだとだ、謙信は強い声で言い切った。その声は女のものに近く高く澄んでいるものである。
その声でだ、謙信は言うのだ。
「尾張の蛟龍も甲斐の虎も」
「武田信玄もですな」
「いつも仰っていますが」
「二人共奸臣です」
このことも謙信から見ればそうなる、幕府をないがしろにすることも幕府の意向に逆らうこともそれになるというのだ。
「しかしあの二人は思い違いをしているだけです」
「その思い違いを正せば」
「あの二人は」
「能臣となります」
そう見抜いているかだった、謙信は二人の心根もわかっていた。しかし謙信はあくまで幕府の視点に立っている。
それが為にだ、こう言うのだ。
「幕府の能臣に」
「だからこそ討たない」
「心をあらためさせるのですか」
「そして、ですね」
「幕府の為に働いてもらいますか」
「私があの二人を導き」
そのうえでだというのだ。
「幕府を立て直します」
「公方様を頂点として」
「そうしてですな」
「何故天下が乱れているか」
このことも
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