第十五話 白と黒の姉妹その九
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「その頃の陸軍軍医総監って」
「裕香さんはわかったわね」
「ええ、森鴎外よね」
「ああ、森鴎外って舞姫とかの」
薊もここで気付いた。
「明治と大正の文豪だよな」
「あの人よね」
「あの人確かお医者さんだったよな」
「本職はそうだったわ」
裕香は薊にこのことを話した。
「ドイツにも留学したね」
「超エリートだったよな」
「それで陸軍軍医総監にまでなかったから」
「その鴎外さんが関係してたのかよ」
「そうよ、森林太郎は森鴎外の本名よ」
ここで菖蒲もそうだと答えた。森鴎外とはペンネームである。尚彼とよく比較される夏目漱石の漱石というのもペンネームである。
「あの名前は」
「そうだったんだな」
「それでその森軍医総監が」
この人物が、というのだ。
「あくまで白米にこだわったのよ」
「そっちの方が美味いからかい?」
「それもあったし栄養的にも問題ないと主張したのよ」
そうだったというのだ。
「脚気菌というものがある筈だからそれへの対策をすればいいと」
「それで陸軍さんは白米で通したんだな」
「その結果日露戦争でも脚気で死んだ人が多かったわ」
陸軍においては、というのだ。
「陸軍さんではね」
「何だよ、森鴎外って藪医者だったのかよ」
「今見ればそうなるわね」
「イメージ違ってくるな」
文豪であり医者であった森鴎外とは、というのだ。
「何かとんでもない奴に思えてきたよ」
「どうも人間的には尊大で頑迷で出世欲、権力欲が強くそれでいて親には頭が上がらなかったそうよ」
「嫌われそうだな」
「人好きのする性格ではなかったみたいね」
人間・森林太郎としてはというのだ。
「実際に」
「成程なあ」
「とにかく。食べることを考えたら」
「白米だけはアウトだな」
「他のものも食べるべきよ」
「あたしも脚気にはなりたくないしな」
菖蒲達ともこうした話をした薊だった、そして裕香と共に自分達のクラスに戻ろうとした。だがここで、だった。薊は無意識のうちに身構え後ろの気配を探った。
その薊にだ、低く硬質の声が来た。その声はというと。
「ここにいたのね」
「?誰だよ」
「後ろよ」
こう言ってきた、薊がその声の方に振り向くとだった。
そこに黒髪をショートにした少女がいた、大きく澄んだ黒い瞳に小さな唇を持っている。顔立ちは整っているが表情はなく人形の様だ。
背は薊と同じ位だ、胸は小さめであまり目立たない。脚はすらりとしていて黒のハイソックスで包んでいる。制服はそのハイソックスに合わせているのか黒のブレザーとプリーツのミニスカートだ。ネクタイも黒でブラウスだけが白だ。
その少女を見てだ、薊はいぶかしみながら問うた。
「あんた、急に出て来たね」
「ええ、今来たところよ」
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