第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
第四節 渓谷 第三話 (通算第18話)
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ったよそ見が、戦場では生死を分ける。訓練ならまだ赦されるが。
渓谷の上を行くダミーと同じ速度でフラガの《ジムU》が月面を蹴って疾駆する。ランバンは慌ててその後ろを追いかけることになった。しかし、徐々に離されてしまう。
「は、速い…!」
ランバンの視界から一瞬で姿を消した様に見えた。もちろんそれは錯覚である。急加速と急制動を繰り返すフラガの《ジムU》が、ランバンの動体視力では捉えきれなかっただけだ。スラスターを吹かさず、AMBAC機動だけでモビルスーツを操縦するフラガの技倆はグラナダのエースと呼ばれるに相応しいものだった。同行が初めてではないランバンにしても、フラガの操縦にはついていけない。
「さすが、沈黙の貴公子…オレの目標だぜ!」
〈沈黙の貴公子〉とはフラガに付けられた渾名である。フラガは実際の所グラナダに来る様な経歴の持ち主ではなかった筈だった。地球生まれの地球育ち、ヨーロッパの名家の出であり、ジオンの進駐がなければ、そのまま地球で暮らしていられたのだ。しかし、一年戦争が始まり、フラガは志願兵として地球連邦軍に入隊、適性検査のあとパイロット候補生として養成学校に入れられ、いつの間にか《ジム》に乗せられていた。相性がよかったのだろうか、ソロモン戦は後方であったため参加しなかったが、ア・バオア・クー戦では最前線で戦ったにも関わらず、八機を撃墜、ニュータイプかと噂された。が、これが軍上層部の警戒を受け、グラナダへ送られた。表向きは昇進であったが。
口数の多いフラガに〈沈黙〉とは面白い組み合わせだとサラートに大笑いされたが、軍の広報部などが組んだインタビューなどでは殆ど喋らないことから付けられたあだ名であった。
フラガの《ジムII》の左肩には六枚翼の鍵が金色で描かれている。鍵はフラガ家の紋章であり、六枚翼はフラガの趣味だ。
「さぁて、サラートはどうカミーユを使ってくるか?」
サラートがカミーユとランバンを組ませず、自分とランバンの組み合わせを進言したからには、カミーユには何かがある…そう思っていた。
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