第二話 品定めの時間
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数十球の立ち投げを終えると、マウンドにジャガーが駆け寄ってくる。サインの確認の為だ。
そして、真近にやってきたジャガーは、権城の顔を見て、首を傾げた。
「どうしました?顔色がよろしくありませんけども。」
権城の顔は緊張に引きつっていた。
あまり質の良くなさそうな汗が顔中に浮かんでいる。
「いや、そりゃ、まぁさすがに……さっきまで中坊の俺が、高校生相手にするんだし。」
権城の視線の先には、小柄な体をしならせるようにして素振りを繰り返す紅緒の姿があった。
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権城が振りかぶる。
均整のとれた体格をスッと伸ばして立ち、上げた足をステップアウトして右腕を振る。
初球はストレート。いきなり130キロの速さを伴って、アウトコースに飛び込んでいった。
小柄な体で左打席に立ち、振り子のように足を上げた紅緒の目が光る。身長に比してやたら長く見える黒のバットが、一瞬にしてミートポイントまで走った。紅緒のしなやかな背筋がぐいーんとしなり、球を捉えた。
キャイーン!!
金属バットの高い音が響いた。
ドンッ!
弾丸ライナーは、右中間のスコアボードに叩きつけられた。
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「…………」
あまりの打球に、目を見開いたままマウンドに硬直する権城。その硬直が解ける前に、打席の紅緒から高い声が響いた。
「なぁーんだ、あっさり終わっちゃったじゃない!あーあ、ファウルにしたりして、もっと遊べば良かったァー!」
屈辱的な言葉をかけられ、ガクッと肩を落とす権城。しかし、俯いたその顔には、少し諦めの入った表情が浮かぶ。
(……ま、こうなる事も予想できてなかった訳じゃないけど……)
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権城が小学校5年生の時、紅緒や譲二、哲也らに誘われて、野球の大会に出場した事があった。
普段は草野球して遊んでいるだけだったが、哲也の思いつきで、本格的な大会に出場してみたのである。それが、権城が唯一小学校時代に経験した大会であるが、この即席チーム「南十字ラメドス」は、なんと東京都準決勝でチームメイトに病欠者が出て棄権するまで、全試合ダブルスコアで勝ち進んだのである。
その時、4番ピッチャーとして打てばホームラン投げれば三振の大立ち回りを見せたのが紅緒だった。普段から、草野球では無双に無双を重ねていたのだが、島から出てもその実力は全く見劣るものではなかった。
(……思えば、俺が島から出て、シニアに入った時も、逆に島よりレベル低くないかって驚いたもんな。いくら島の外でソコソコやれたって、まだ紅緒ちゃんには及ばないって事か……)
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