ルームアウト・メリー 前編[R-15]
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。あまり興味は湧かない。
一人は、ロープに首をつられた形で天井からぶら下がっている中年の女性。
こちらからでは顔は見えないが、死後に垂れ流した糞尿と体液が身に着けたズボンと床のカーペットにシミを作っていた。私に嗅覚はないが、きっと目の前の青年にとっては耐え難い悪臭をばらまいているのだろう。
その身体はまばらな黒い点に覆われており、よく見ればそれは体に張り付いた無数の蠅だった。何匹かはぶんぶんと不快な羽音をたてながら室内を飛び回り、また女性の身体へ戻ってゆく。蠅が止まった途端に、周囲の黒い点が一斉に蠢いた。黒い斑点の隙間に見え隠れする白い何かは、蠅の卵かもしれないと思った。これにもあまり興味は湧かない。
そして最後の一人。
右手に大きく割れたワイヤレスの電話を、左手にサバイバルナイフを握った、あの青年。
部屋の入口に立ちつくし、たった今受話器を取り落してそっと後ろを振り向いた青年。その顔面からは血の気が引き、たった数時間で一気に老け込んだように生気が、エネルギーが無かった。生きる人間が持っている筈の決定的な生存本能さえも揺らいでいるように、体がふらふらとおぼつかない。青年はかちかちと歯を鳴らしながら私の声をした方向を振り向いた。
床に立つ私の姿を、彼の目が捉える。眼球に私の姿が反射された。激しい動揺が見て取れる目だった。瞳孔がすっと開き、身体がぐらついた。
その動揺は、後ろに人形が出現したことからか。それともその人形が独りでに立っている事にか。それとも声の主が見つからないからなのか―――どれも違う。いや、既に青年は平静な精神状態を保っていないのかもしれない。激しい息切れに、震える肩。だがやはり、彼が何故そうなっているのかに興味は湧かなかった。ただこの部屋で何が起きたのかに、興味は向かっている。無意識的自意識が真実の究明を望んでいる。
「あなたがやったの?」
問うのは、もちろんこの状況。
一人は首吊り、一人は服毒、そして生きている一人は手にナイフを握っている。
安直な帰結だ。だが、恐らくはそうではない。彼は予想通り、否定した。
「違う!!」
「貴方は関係ないの?」
「それは・・・ッ、でも、俺は!俺は・・・・・・こんなことになるなんて、思わなかったんだ」
感情的な反論から一転、抑揚のない声でそう返した。溜めこんだ感情を吐露して気を紛らわせようとしているのかもしれないが、彼の言葉に興味が湧いていた。メリーさんを形作る無意識の真実を暴く、まるで探偵メリーだ。まるで推理もしなければ、背後へ自動で辿り着く尾行だが。そう考えれば、私は人探しに向いているかもしれない。青年の自白染みた話が始まった。
「俺は、この家から逃げたんだ。親父はいつだって自分の名声と周囲の評価しか考えてないし、母さんはいつだって親父の
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