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【短編集】現実だってファンタジー
ルームアウト・メリー 前編[R-15]
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た手順を繰り返すルーチンワークのように、いつものように、それを口にした。

「私メリーさん。いま、ゴミ捨て場にいるの」


 = =


「私メリーさん。いま、ゴミ捨て場にいるの」
『・・・誰だい?親父の・・・・・・知り合いかな?』

その音声は空間的、空気振動的、電気信号的な束縛を越えてあの青年に届く。
電話など必要ない。ただ言えば、もうその言葉の前に電話は既に掛かっており、彼はそれに出ている。そこに私の声が流れる。そういうことになっていた。そして彼の声もまた、あらゆる物理的制約を越えて私の元へ届く。姿も何も見えないのに、彼がまるで目の前にいるような感覚があった。ターゲットを決めると、いつもそうなる。

私は移動しない。ただ結果が見えないだけで目の前に存在する。
だから後は段階を踏んで見えない現実を自分に近づけ、最後に結果だけが目の前に現れる。人間の感覚では逃げているつもりらしいが、それは間違いだ。人間の背中の後ろに既に結果が存在しているのだ。電話自体は形式的なもの、儀式でしかない。本当はもうそこに至るまでの事実は決定している。

男の声は聞こえない。私はただ事実を伝えればいい。だから向こうが不審に思ったり気味悪がって受話器を置いたら、その時に私はなんとなく次の言葉を喋りたくなるのだ。だが、まだ喋りたくならない。青年がこちらと会話しようと言葉を選んでいるのだろう。

『君は、親父のなんだ?まさか、あの糞野郎・・・変な関係じゃないだろうな』
「私メリーさん。私がお話をしてるのは貴方。お父さんじゃないわ」
『えっ・・・・・・?でも、だって君は親父の家に電話をかけて来たんだ。俺は親父とは縁を切ってるんだぞ?ここに電話がかかってくるわけないじゃないか』

戸惑いがちに答える青年の声。都市伝説メリーさんとは違った、些細な違和感。それの理由が分からず、私は暫く黙った。喋る必要を感じなかったから。周囲を包む暗闇が、時間がたつにつれ少しずつ濃さを増していた。

頭上の電灯に数匹の蛾が光に釣られて群がっていた。本能に導かれるがままに無意味な行動を重ねてエネルギーを浪費している、高熱の電灯に何度も羽根をぶつけては、鱗粉を意味もなく撒き散らす。私が人間をターゲットに定めるのも、本質的にはあれと変わらないのかもしれない。人間の無意識こそがあの蛾にとっての本能で、今考えている私は理性の私だ。もっとも、メリーさんに理性は必要ないが。

やがて、何となく喋りたくなった私はまた言葉を発する。その時、私の世界は青年の世界に一歩近づいた。ゴミ捨て場から、商店街の一角に私の身体は投げ出されていた。

「私メリーさん。いま、閉店したお肉屋さんの前にいるの」
『・・・・・・また、君か・・・けほっ、けほっ!』
「ねえ、聞いていい?」


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