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問題
第一章
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「法整備は全然だし」
「考えるな」
「政治家も官僚も皆やる気はないし」
「他に色々とやることがあるんだろう」
「全然駄目じゃないか」
 あらためてこう言うのだった。彼が憂いているのは日本の国防のことだったのだ。家が代々軍人なので興味を持って調べてみたら愕然となったというわけだ。実に笑えない。
「こんなのでずっとやってきたなんて。嘘みたいだ」
「俺は何も言わないぞ」
「わかってるよ」
 自衛官がそれを言っては駄目なので言わないことはわかっている。だからもうこれ以上言わなかった。
「全く。それで兄さん」
「今度は何だ?」
「出発何時?」
 それを兄に問うた。
「船で行くの?それとも飛行機?」
「船の方が金はかからないんだ」
 つまり船で行くということだ。
「海自さんの船でな。見送り頼むぞ」
「わかったよ。じゃあその時ね」
「それで父さんは?」
「まだ大学だよ」
「そうか」
 父は自衛官を定年退職してから大学の教授になった。といっても軍事を語るのではなく理学博士としてだ。自衛隊時代に元々そちらの分野出身で研修や論文で博士号も取った為大学教授に請われてなったのだ。勿論軍事を語ることはなく彼が元自衛官であるということを知っているのは大学の中でも僅かだ。
「何でも生徒の論文を見るのに忙しいってさ」
「わかった。じゃあいい」
「母さんはカラオケ行ったよ」
 母の貴美子の趣味である。時間があればそこに行くのだ。留守番はいつも構成の仕事だ。家でゲームをしたりパソコンをしたりするかこうして日本を憂いているか。どれかで時間を費やしているのである。
「そうか。平和なものだな」
「治安は悪くなったって言われるけれど平和は平和さ」
 面白くなさそうな顔で兄に答える。
「兄さん達のおかげでね」
「また随分ストレートな嫌味だな」
 だがそれでも表情を曇らせてはいない。慣れたような顔だった。
「だから俺に言っても何にもならないぞ」
「大学でもいつも言ってるさ」
 実際に行動にも移しているのである。
「日本の国防はこれでいいのかってね。しょっちゅう街頭演説みたいにやってるよ」
「それでその反応は?」
「全然」
 首を横に振って肩をすくめての言葉だった。
「誰も振り向かないし大学側も止めたりしないよ」
「表現の自由だな」
「大学側を当局とか言って批判するような話じゃないしね」
「というよりは誰も興味のない話だ」
 何気に率直に核心をつく英雄の言葉だった。
「駅前とか公園でも言ってみたか?」
「お巡りさんが一人来て許可を出していないのならさっさと止めなさいだったよ」
「それは御前が悪い」
 英雄は台所にあったサラミを包丁で切っていた。それを皿に乗せてついでにビールを持って来た。そのサラミとビールを
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