第二章
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州の、ですか」
「この辺りのことを詠ったものですが。学校では習わなかったのですか」
「ええ、すいません」
残念ながら記憶にはなかった。白楽天や王維の詩なら知ってはいるが。あとは春眠暁を覚えず、のあれであろうか。こうしてみるとどうも僕の漢詩への知識はまだまだ乏しいようである。
「そうですか。それでは説明しますね」
「はい」
「この詩はこの西方での戦いを詠ったものなのです。西方で戦いに出ている兵士達のことを」
「あ、そういえばここはかっては国境でしたよね」
「ええ。ほら、ここから暫く行ったら万里の長城がありますよね」
「はい」
見れば遠くに見える。まさかこんなところにまであるとは思わなかったが。まさしく長城であった。
「あれの向こうには異民族がいましたから。ここでは彼等との戦いが絶え間なく行なわれていたのです」
それは唐代だけではない。中国が秦により統一される前から彼等との戦いはあった。そして長城があった。秦の始皇帝は彼らを防ぐ為にその長城を延長したのであった。そして彼等を防いだ。異民族達は騎馬民族であった。その馬を防ぐ為の壁であったのだ。これは中国の境の象徴でもあった。秦が滅び漢になり、隋や唐になってもそれは変わらなかった。やはり北の騎馬民族との戦いが行われ長城が築かれた。あの長城は境であると共に戦場でもあったのだ。
「そうした場所から生きて帰れる兵士はそうそうおりませんでした。激戦地でしたしね」
「はい」
そうだろう。異民族との戦いは熾烈を極める。ましてや相手は精強な騎馬民族である。そんな戦場においては命を落とすことも稀ではないだろう。
「そんな中で兵士達はこのワインを飲んだのです。ほら、ここは交易の道でもありますね」
「はい」
所謂シルクロードだ。
「西域のものも手に入ったのです。それがこのワインと」
「ガラスの杯ですね」
「そういうことです」
彼女は笑顔でそれに応えてくれた。
「このワインはその兵士達と西のことを思うお酒なのです。ですから他の場所で飲むよりも美味しいものとなるのです」
「成程」
わかったような気がした。飲んでみれば確かに違う。何か西の方から風すら感じる。心地良い風であった。
「ふう」
ワインのほかには何もないのに酒が進む。自然と口に入っていく感じであった。グラスに注がれていく酒が次々と消えていく。僕もガイドさんもまるで水を飲むようにワインを飲んでいく。黄色い砂の世界がまるで黄色い花々のように感じられる。こうして見ればここはここで幻想的な世界であった。
「お酒だけで宜しいですか」
「といいますと」
ここで尋ねてきたガイドさんに顔を向けた。おそらく今の僕の顔は酔ってかなり赤くなっているだろうがガイドさんは相変わらずであった。白い顔のままである。
「音楽なぞどうです
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