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トワノクウ
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第三十夜 冬ざれ木立(一)
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ここに、贋作の姫巫女がいた頃の話だ」
「伝聞では」
「夜行はまるで替え玉に最後の後押しをするために現れた。現に夜行の宣告で替え玉は自滅した。()()()()()()()()()()()()()()()()()に現れた。偶然とは考えにくい」

 菖蒲は考え込むそぶりを見せた。

「篠ノ女さん達を中心にまた天♀ヨ係の事変が起きようとしていると?」

 梵天は今度、何の含みもなく首肯した。

「ああ。夜行が出るくらいだ。事態は今や」
「手遅れに近い――ですか」

 両者の間に沈黙が流れた。先に破ったのは梵天だった。

「俺からの話は終わり。悪いが、次の客が待ってるよ」

 梵天が顎をしゃくった先の宵闇から、その闇に融け込みそうな色のドレスと、浮き立った白髪を翻し、一人の少女が出てきた。

「ご無沙汰してます、菖蒲先生」

 篠ノ女空は菖蒲に向かって一礼した。





 菖蒲が〈銀朱〉に就任したと予想して、梵天に確認すべく天座を訪れれば、案の定だった。
 すでに坂守神社から手を回されて俗世を離れた菖蒲とは接触できず、菖蒲の潔斎終了を待つしかなかった。

 そして待ちに待った就任式の今日。梵天が直接菖蒲に会いに行くというので、くうも坂守神社に同行させてもらった。

「お元気そうでよかったです。ずっと会えなかったから、心配でした」

 にこり。くうは他意も含みもない笑顔を浮かべた。

「それは人としてですか? それとも妖としてですか?」
「両方です」

 新しい〈銀朱〉が就任すれば妖への牽制にはなる、と朽葉が教えてくれた。人として、妖に害される人が減るのを安心した。

 新しい〈銀朱〉が就任すれば、各地で妖祓いが活性化し、雌伏している妖さえ狩り出されてしまうかもしれない。妖として、人に害される妖が増えるのを危惧した。

 どちらも篠ノ女空の偽らざる本心だ。

「あくまでどちらの肩も持つ、と」
「はい。くうは、欲張りですから、梵天さんも菖蒲先生も、どっちともと仲良しでいたいんです」

 ぷふっ。菖蒲は遠慮なしに噴き出し、笑った。

「意外と青臭いんですね、貴方。私の下に通って来た頃は、もっと合理的な子だと思っていましたが、買い被りでしたか」

 くうはドレスの裾を両手で持ち上げて踏まないようにしながら、階段を降りた。神社の敷地に入るか入らないかの、小さなスペースで立ち止まる。

「これが最後かもしれません。ここは、くうには辛い思い出がありすぎて、また来られるなんて約束、できないから。それに、また明日って簡単に言える世界じゃないってことも、もう分かりましたから」

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