第三章
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第三章
「あれ、動かなくなったぞ」
「マタドールに向かわないぞ」
「どうしたんだ?」
皆そのプラシドを見て言います。
「これじゃあ闘牛にならない」
「どうなるんだ?」
「動かないぞ」
とにかく牛が動かないのではどうしようもありません。観客の人達もマタドールも困ってしまいました。その中でマタドールは言うのでした。
「ちょっと」
「ちょっと?」
「この牛は闘う気がないようだよ」
こう入り口のところにいた係の人に話すのでした。
「どうやら」
「闘う気がない闘牛ですか」
「ずっとお花を見ているよ。あれは闘う気がないよ」
「そういえば確かに」
係の人もここで気付きました。プラシドがずっとお花を見ていることに。
「じゃあどうしましょう」
「闘う気がないのならいいよ」
マタドールは言いました。
「もうね。いいよ」
「いいんですか」
「向かって来ない牛に剣を刺しても僕としては面白くないし。それに」
「それに?」
「お客さん達もそんなの見ても楽しまないだろう?だからいいじゃないか」
「はあ」
「だから。もういいじゃない」
こう言うのでした。
「あの牛は闘牛じゃなくて元の場所に返してあげようよ」
「わかりました。それじゃあ」
こうしてプラシドは闘牛場から出されました。そうして牧場に戻りました。牧場の人達は戻って来たプラシドを見て言うのでした。
「折角売れたのにね」
「お金は払い戻したわ」
「儲かったって思ったのに」
まずはこう言うのでした。
「けれどまああれだよな」
「そうね。プラシドにはやっぱり」
「闘牛は似合わないんだね」
このことを確かめることになりました。彼に似合うものは。
「今日はそのお花を見てるね」
「うん」
周りの牛達に対して答えるその時もじっとお花を見ています。今度は牧場の真ん中に生えているクローバーのお花を見ているのでした。緑の中にある赤いお花を。
「クローバーのお花。奇麗だよね」
「そうよね。食べても美味しいし」
「とても奇麗だね」
「ずっと見てみたいな」
ここでこう言うプラシドでした。
「食べるのが勿体なく思えるよ」
「じゃあ気が済むまで見たらいいよ」
「そうしたら?」
牛達はその彼に対して言います。
「気が済むまでね」
「じっくりとね」
「それじゃあこうして見ているよ」
プラシドはその皆の言葉を受けて述べました。
「こうしてね」
そうして何時までもお花をその優しい目で見続けるプラシドでした。プラシドは一度も喧嘩をせずずっと牧場の中で楽しく過ごしました。お花を見ながら。
優しい雄牛 完
2009・8・25
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