第百六十九話 三方ヶ原の戦いその十
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「あの者達が化けておることは見てわかります」
「ではわしが本者ということも」
「わかる者はわかります」
そして実際にだ、こう声がした。
「向かって来ている徳川家康は皆偽者ぞ!」
「まことの徳川家康は逃げておるわ!」
「本者を追うのじゃ!」
「逃がすな!」
こう言うのだった、だが。
飛騨者達は自分達こそが家康だと名乗り戦い続ける、攪乱はしていた。
その攪乱に乗る者もいればわかっている者もいる、武田軍に混乱が生じているのは明らかだった。それでも大久保は言うのだった。
「わかっておる者達が来ますので」
「今のうちにじゃな」
「はい、武田の軍勢が戸惑っているうちに」
まさにだ、そのうちにだというのだ。96
「浜松まで逃れましょう」
「そうじゃな、折角皆が生かしてくれておるのじゃ」
それならとだ、家康も今はこう考えられていた。それでだった。
何とか大久保と共に浜松城まで逃れた、そのうえで城に帰ると城に遺していた僅かな兵達が一斉に出迎えてきた。
「殿、お帰りですか」
「戦はどうなりました」
「殿と大久保殿だけがお帰りとは」
「まさか戦は」
「負けたわ」
家康は馬から下りてまずはこう言った。
「残念じゃがな」
「左様ですか、では」
「我が軍は」
「城の門を全て開けよ」
そうせよというのだ。
「わかったな」913
「全ての門をですか」
「開けよと」
「そうじゃ、すぐに皆帰ってくる」
だからだというのだ。
「そして灯りを思いきりつけよ」
「火もですか」
「用意せよと」
「その方が皆帰られる」
夜にだというのだ。
「だからじゃ」
「しかし殿」
足軽の一人が家康に問うてきた。
「それでは武田が来た時に」
「城に容易に攻め入ってくるというのじゃな」
「そうなりますが」
「いや、それはない」
「ないですか」
「武田信玄は考える者じゃ」
今そのことを痛感しているからこその言葉だ。
「門が全て開いておりしかも灯りまで照っていればどう思う」
「それはおかしいですな」
「どう考えましても」
「それがしもそう思います」
「それがしもです」
これは兵達もだった、普通敵が来れば門は閉じ灯りは消す。これは誰もがそうすることだからである。だがだった。
家康はそれを逆にする、それは即ち。
「空城の計ですな」
「そうじゃ」
まさにという顔でだ、家康はここまで供に来てくれた大久保に応えた。
「その通りじゃ」
「あの三国時代の」
「あれを使うのじゃ」
かつて諸葛亮孔明がしたというそれだ、三国志演義にある。
「これでどうじゃ」
「確かに。軍勢も帰りやすいですし」
「武田信玄もまさかと思うであろう」
「かなり危ういですが」
「いや、武田信玄ならな
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ