第百六十九話 三方ヶ原の戦いその九
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「馬も借りたしな」
「その馬はどうして調達した」
大久保が己の隣を進む煉獄に問うた、見れば皆馬に乗っている。
「確か御主達は皆徒歩の筈」
「死んだ人が多いからな」
ここでだ、煉獄は苦い顔で言ってきた。
「だからな」
「そういうことか」
「ああ、その人達の馬に乗ってるんだよ」
「そうであるか」
「悪いが借りてるぜ」
このことは申し訳ない顔で言う煉獄だった。
「そうさせてもらってるな」
「よい」
家康はこのことについてはあえて前を向いて答えた。
「死んだ者達も馬を使ってくれればな」
「そう言ってくれるんだな」
「浮かばれよう」
「悪いな、本当に」
「うむ。それでどうするのじゃ」
「ああ、こうするんだよ」
煉獄はこう答えてだ、すぐにだった。
右手で顔を拭った、すると。
その顔は家康のものになっていた、髷もそうなっている。
何時の間にか黄色い具足も着ている、その姿で言うのだった。
「これならどうだ」
「おお、わしになったのか」
「具足もな」
それもだというのだ。
「死んだ人から借りてるぜ」
「左様か」
「そういうことだよ。それでな」
ここで家康の顔になった煉獄は家康に自分の周りを見る様に促した、すると他の飛騨者達もであった。
皆家康の顔になり徳川の具足を被っている、中には軍配を持っている者もいる。その姿になってというのだ。
「わし等が影武者になるからな」
「徳川殿は今のうちに」
「逃げられよ」
「我等が攪乱する」
「それ故に」
「今は」
「生きて帰って来るな」
家康は自分の姿になった飛騨者達にこのことを問うた。
「必ず」
「わ、わし死なない」
あや取りと思われる家康が言ってきた、独特の喋り方で。
「だ、だから徳川殿はあ、安心して欲しい」
「わかった、ではな」
「僕達はそう簡単には死なないからね」
獣も言ってくる、家康の顔で。
「徳川殿は早く逃げてね」
「後で皆浜松に戻るからね」
大蛇も言う。
「だからね」
「わかった、ではな」
家康は飛騨者達の心を受けることにした、そしてだった。
飛騨者達は一斉に散ってそれぞれ名乗りを挙げた。
「我こそが徳川家康ぞ!」
「いや、わしが徳川家康だ!」
「徳川家康はここにいるぞ!」
「さあ、わしの首を取る者は何処だ!」
「殿、ここはです」
大久保もだ、家康に言ってくる。
「飛騨者達に合わせ」
「どうせよというのじゃ?」
「兜をお取り下さい」
そうせよというのだ、家康に。
「ここは」
「そうせよというのか」
「その方がばれませぬ」
だからだというのだ。
「ですから」
「左様か、ではな」
「一刻も早く浜松へ参りましょうぞ」
「そうじゃな、飛騨者達が引き受けて
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