トワノクウ
第二十九夜 巡らせ文(三)
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と同じに、朽葉が座っていて。彼女は湯気の立つ土瓶を持ち上げて笑った。
「腹、減ってるだろう? 用意しておいた」
くうはにじむ目尻を下げる。
「はい……ぺこぺこです」
朽葉が用意してくれたのは、味噌焼きおにぎりの茶漬けと湯豆腐。レンゲでだし汁の中に崩した米を無心に食べた。
ぽろ。
途中で涙が落ちた。
朽葉は何も言わなかった。くうも何も言わなかった。しゃくり上げながらお茶漬けを食べきった。
「ごちそうさま、でした」
「美味かったか?」
「はい」
「よかった。実はこれは、お前の父親が昔、私に作ってくれたものなんだ」
「お父さんが――」
「私が犬神のことを鴇に打ち明けた後でな。私の空腹を察して、有り物で別山焼を用意したんだ。器用な奴だった」
「さすがお父さんです」
器用な父を想像し、くうはちょっとだけ微笑めた。
篠ノ女家の冷蔵庫にはいつも食材が常備されているから、ありあわせの料理は食卓にほとんど出ない。だから、父の今までにない一面を知れて、心がほっこりした。
「沙門様にはお許しを頂いている。明日からまたこの寺にいてくれるか?」
(くれるか、なんて。むしろ、勝手に帰って来たくうが頭を下げて置いてくださいって頼むべきなのに)
くうは涙目になりながら肯いた。
「その上で、訊いてもいいか。お前が天狗に攫われてから何があったのか。話せるとこまででいいから」
心配をかけてしまったと今なら分かる。
坂守神社の妖討伐に付いて行ってから、それっきりだった。落ち着いてから便りは出せたはずなのに、くうと来たら自分のことにかまけてばかりで。
くうは素直に、梵天に坂守神社から救われて、今日まで天座にいたことを語った。
露草の眠りや菖蒲と会ったこと、薫とぶつかったこと――
その中で、菖蒲の妻がすでに故人だと話した時、朽葉の表情は凍りついた。
「鶴梅、が、死んだ――?」
「朽葉さん、菖蒲先生の奥様をご存じなんですか」
朽葉は沈痛な面持ちを片手で覆った。
「私にあの符をくれた、友人、だ」
「あっ」
犬神を実体化させるには符を影に貼らねばならないと言っていた。それをくれたのは巫女だとも。――こんなところに繋がっていた。
「そうか……死んだのか、あいつ」
苦笑になりきらないいびつな唇。
くうは膝立ちになり、朽葉を抱きしめた。頭を撫でた。いつも朽葉はくうが悩む時にこうしてくれたから。
「悲しいことだと思います。朽葉さんにとってのお友達が死んだこと。悲しいと思って正しいです」
そして、今のくうには言葉がある。朽葉のもとにいた頃は何を言っていいか分からないことだらけだったけれど、たくさんのものを
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