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トワノクウ
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第二十九夜 巡らせ文(二)
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恩返しは充分です。これ以上の厚意は受け取れません。だってそれは本来、鴇先生に向けるべきものですから」

 すると露草は、掴んでいたくうの肩に、へし折らんばかりに力を入れた。

「……ざけんな」

 地を這うような声。

「つ、露草、さんっ、いたいっ」
「っ、わり……」

 露草は謝ったし、握る力こそ弱めたものの、くうの肩から手を離すことはなかった。

「犬憑きのとこでも、不良教師んとこでも、」

 露草は一度言葉を切ったが、すぐに続きを言い上げた。

「どこに行こうと手前の勝手だ。でも、いられねえと思ったら――頼れ。お前一人くらいなら何とでもしてやる。俺が言いたかったのは、そんだけだ」

 すとんと胸に落ちた気遣いの言葉。

「……私、鴇先生じゃないですよ」
「当たり前だろ」
「鴇先生みたいに明るくないし、強くないし、辛かったら逃げるし、露草さん達を助ける特別な力なんて持ってないです」
「だから何だ。鳳だけでも破格なのに、これ以上何かあって堪るか。性格だって、別に目を覆うほどひどくもねえだろ」

 胸に、来た。

 くうは露草に歩み寄り、頭を彼の胸板に預け、両手で装束に縋りついた。露草の困惑の気配が伝わった。

 露草さん、と心臓を跳ねさせながら呼びかける。

「好きです」

 抱きついた彼が全身で動揺したのが伝わった。

「な、何言ってんだこの阿呆鳥!」
「あははー。いいじゃないですかちょっとくらい。今日までの感謝と親愛の表現ですよー」

 言えば言うほど胸が痛くなるのは、潤への恋心を昇華できていないからだろう。さすがに恋した少年が死んだ直後に、別の男に愛を囁けるほど、くうも厚顔ではない。

 くうは露草から離れた。

「お言葉に甘えて、だめだった時は、いっぱい甘えちゃいますね」

 きっとそのようなことにはならないだろう。今貰った約束だけで、くうの胸はいっぱいだから。
 野を流れる生き方をすることになろうが、彼の言葉を何度も思い出しながら、独り生きていけるだろう。



 Continue…
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