トワノクウ
第二十九夜 巡らせ文(二)
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ちを振り払った。そして、塔の敷地を出て行こうとした。
「おい! くう!」
心臓の位置がずれたのかと思うほど、鼓動が跳ねた。
心の準備もないままふり返る。やはり、露草だった。
「あ、の、なに」
露草は苦そうな表情でくうの前まで来て、風呂敷包みを突き出した。
「忘れもんだ」
「あ……」
ドレスが入った風呂敷包み。挨拶の時は傍らに置いておいたのに。恥ずかしさと申し訳なさと、期待した自分へのみじめさが、同時に込み上げた。
「ありがとう、ございます。わざわざすみません」
上手く笑えていますように。そう願いながら、くうは露草から風呂敷包みを受け取った。
ではこれで、と去ればいいのに、くうは迷った。さらなる言葉を露草からかけてもらえないかと。
そんな弱さと決別したいから、天座を出て行くのに。
「梵天が言ってたぜ」
「梵天さん?」
「お前は頭がいいから、少し話してやれば全部理解するってな」
「頭の足りないお前の相手も務まる、とか言われました?」
「――」
図星らしい。憎まれ口を叩き合っても、互いに見放さない辺りが兄弟らしい。
「篠ノ女と話してる気分だ」
「お父さんと?」
「あいつが人の子の親ってのも妙な感じだな。何考えてんのか読めねえくせして、こっちの腹は見透かしてやんの。腹立つ」
「ふふ。その辺の思い出話、また今度聴かせてくださいね」
「――本気で出て行く気かよ」
暗に今は聞けません、と伝えたのを露草も分かってくれた。そして、こうして引き留める程度にくうの身の上を案じている。
「いつでも会えますよ。これが永遠の別れじゃないんですから。くうも露草さんも、生きてます。会いたい時にいつでも会えばいいです。生きているなら会えるし、話せるし、笑い合えます」
「いつでも会えるんだとしてもっ」
露草はくうの肩を乱暴に掴んだ。
「今お前を一人にすることとは話が別だ!」
花色の目が真剣にくうを射抜いた。
近い。
その近さが思考まで爆破したように思えて、くうはただ目を奪われた。
(露草さんはいつだってくうとまっすぐ向き合ってくれた。くうを何度も助けてくれて、くうの勝手な決意だって「やってみろ」って言ってくれた。そっか、だから。私、露草さんに憧れてたんだ)
恋になったかもしれない想いの芽。気づいたのがもっと早ければ、くうの行動も変わったかもしれなかった。
だが、露草が何に基づいてくうに構ってくれていたかを、残念ながら、くうは知っていた。
「私、そんなに鴇先生に似てます?」
それは露草を停止させるために用意した呪文。
「分かってますよ。鴇先生に似てるから見離せなかったんですよね? でももういいですよ。
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