トワノクウ
第二十九夜 巡らせ文(一)
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を傾げた。確かに潤の血を浴びはしたが、あの時は露草とて触れたし、塔まで抱えていたのは空五倍子だった。
「姫巫女と同じく潤朱も神水を摂取していたようだね。ただの人の血ならともかく、神水まじりの血をそうも浴びてよく平気でいられるね。一応は妖だろうに――鳳の再生力のせいか」
梵天はくうの腕を強引に引くと、くうを肩に担ぎ上げた。俵担ぎだ。
目を白黒させるくうを、水干の人とキツネが見送っていた。
「近くの川で落としてもらう。清めないと塔の敷居は跨がせない」
「あ、の、これ、毒なら、梵天さんにも」
「俺は対妖のものが効かない体質なんだ。下手に暴れたら落とすよ」
暴れる気力などない。くうは運ばれるに任せた。
やがて着いた川の前。降ろされたくうは迷った末、ブーツと帽子だけ脱ぎ、ドレスのまま川に入った。しばらくは水流に任せてドレスから血を落とした。
続いてくうは水の中でドレスを脱いで、大きな岩に置いた。
裸に夜の水が冷たい。
梵天は近くの木にもたれて腕組みをし、仏頂面でくうの禊を見ている。見えて困る部位は水の下だからいいが、こうして血を落としながら心を落ち着けてみると、梵天に迷惑をかけたことが重くのしかかってきた。
(天座の主の客分が妖の害になりかけたんじゃ、梵天さんの面目は丸つぶれ。危ないとこだった)
そして、この状態のくうを担いだ露草と空五倍子に思いを致す。
「梵天さん、露草さんと空五倍子さんは大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけないだろう。両名、禊の最中だ。だから俺だけで来たんだろうが」
「……ごめんなさい」
「反省したかい」
「……しま、した」
「ならいい」
沈黙が落ちる。気まずい。くうは顔半分を水に沈めてぶくぶくと気泡を上げた。
「一人で飛び出した理由、当ててあげようか」
顔を上げる。梵天は無表情のままこちらを見ていた。
「どうしてこうなったのか――それを考えていたんじゃないかい」
こく。くうは小さく肯いた。
「君は聡い子だ。それを考えてもどうにもならないことは、分かっているね?」
「……分かります」
原因を知りたいのは、知れば過去でさえ変えられると錯覚しているからだ。
本当に知りたいなら、くうは潤がああなった原因ではなく、潤がああした動機を探るべきだ。
そう理解できても、心が両者を混合する。なんにもなれなかった恋心が、変えられるものを求めて足掻く。
くうが黙り込んでしまっていると、
「――昔、萌黄に一度だけ聞いてみたことがある
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