トワノクウ
第二十八夜 赤い海(四)
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の場は潤朱が預かる! 行け!」
巫女たちから抗議の声が上がる。潤はその声一つ一つに否を返し、彼女らに逃げ延びるよう促す。そうする内に巫女たちも、段々と踵を返し、坂守神社の敷地を出て行った。
やがて無人になり、ようやく潤はこちらを振り向いた。
「潤、君? なに、を、する気なんですか」
自ら兵力を削ぎ、己一つであの怪物にどう立ち向かうのか。
潤はくうに答えず歩き出す。くうの横をすれ違う。
引き留めたくて、くうは背中から潤に体当たりして抱きついた。
「だめ、だめです、行っちゃだめ」
うわ言じみた懇願しかできない。
「篠ノ女」
場にふさわしくない落ち着き払った呼びかけ。
くうは強く潤の背中にしがみつく。予感が止まらない。離せば最悪の事態になる。
「ほんとはあの日、最後に観覧車にでも乗って言うつもりだったんだけど」
潤はふり返らず、正面の赤黒い肉柱を見据えて言う。
「俺、篠ノ女が好きだったんだ」
潤は乱暴にくうを突き飛ばすと、肉柱へと走り出した。
そこからのことは映画のように現実味がない。
潤は襲い来る触手をピストルで撃ち落としながら突進し、自ら肉柱に突っ込んで取り込まれた。肉柱はなおも躍り続けた。
潤がずぶずぶと沈んでから、時間にして一分も経たず、肉注が内側から破裂した。内部で何度も銃を暴発させたのだと分かった。
肉片や肉塊や粘液が境内に四散した。肉塊の中にいくつか知ったパーツを見た気がしたが定かではない。
その内、固いものが足元に転がってきた。
血でべっとりと汚れた、ワインレッドのスマートホン。
拾い上げた。死体のように冷たかった。
くうはスマートホンを握ったまま、ふらりと歩き出す。
どこへ行くかは知らない。潤の死臭がしない場所へ行きたかった。
そのくうを後ろから引き留める者があった。視界の端をよぎった緑毛から露草だと知れた。
くうは腕を振り回して露草から逃れる。再び歩き出す。
そこに二度目の拘束。くうは抗えず、露草を巻き込んでその場に座り込んだ。涙腺はとうに壊れていた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
くうはせっかく引き止めてくれた露草をしっちゃかめっちゃか叩いた。手頃で当たり散らせるものなら誰でも、何でもよかった。とにかく泣いて喚いて八つ当たりを続けた。
恋した少年の形見を握ったまま。
Continue…
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