トワノクウ
第二十八夜 赤い海(三)
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気づかなかったとはおめでたいね。兆候はあっただろう。たとえば、社の結界内に出現する小妖怪。俺は森の妖には社には近づくなと言ってある。小さい者ほど近寄らない。ならば、ここに出没する妖は一体どこから来ているのか」
銀朱より先に潤がさっと色を失くした。その反応からくうは、潤もまた妖の生まれ方を知っているのだと分かってしまった。
「妖は人の負の感情、心の闇から生み落とされる。それが何を意味するか分かるだろう?」
次に銀朱が瞠目してその場に立ち尽くす。信じたくない、聞きたくないと銀朱の目は語るが、梵天は容赦なかった。
「君が生んでるんだよ、その醜い傷から、あの醜い妖を」
くり広げられる火と血と悲鳴の惨劇を背に、銀朱は愕然と立ち尽くした。
(銀朱さんが梵天さんを憎んだから、その憎しみが生んだ妖が自分自身を呪って、呪いの痛みでまた梵天さんを憎んでいたなんて……何て救われないスパイラル)
銀朱はぎこちなく右の顔に触れる。手が震えている。唇も、漏れる声も震えて。
手が。傷に爪を立てた。掻かれた傷からかさぶたが剥げ落ち、新たな鮮血が流れ出す。
くうはその光景を直視できずに、しがみついていた空五倍子の脇腹に顔をうずめた。
「そう、ですか。これもあれも、すべて私自身の」
銀朱の声色が変わった。
はっとしてくうが顔を上げると、彼の口角は三日月のように歪んでいた。
「それが何だ」
そして、すさまじい憤怒を梵天に向け放った。
「私の闇から妖が生まれるというなら、その妖も調伏するまで! 妖など絶えるまで踏み潰してくれよう! 妖の棲む世に人の救いなどない!」
ショックの中で浮かんだのは、理不尽への混乱だけだった。
どうしてそこまで妖を悪と断じることができるの?
どうして傷つけた梵天のみでなく妖全体を憎むの?
くうが声を発せず立ち尽くしていると、どこからか、鈴の音が響いてきた。
ちりーん。ちりーん。
「この鈴の音……夜行!?」
潤が見上げた方向をくうも見上げる。
夜空に、この世界に初めて来た日以来の、鈴を持った小人が浮いていた。
「夜行にまで入り込まれるなんて……くそっ」
潤はピストルを出して夜行へ連射した。それで「その」夜行は消えた。だがまるでそれがダミーのように、すぐに新しい夜行が現れた。
『お前が』
夜行が指したのは銀朱――ではなかった。潤だ。
『姫巫女の責を代行するほどに、姫巫女はすべき義務も職務も失っていった。姫巫女がすべきことを、お前が全て奪ってしまったゆえに、姫巫女は己の存在意義をなくした。お前は姫巫女の闇そのものだ』
潤が顔色を無くした。
「な、んで、お前がそんな、こと、知って」
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