トワノクウ
第二十八夜 赤い海(三)
[1/3]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
盛大に焼けている本殿の周りには、ちらほらと火傷に苦しむ戦巫女が倒れている。怪我人が大勢いる。そのことにくうは本能的な恐怖を感じ、空五倍子の毛並みにしがみついた。
そうしていると、炎の中から二つの人影が出てきて、くうたちから離れたところで膝を突いた。
潤と、銀朱だ。
銀朱は潤に肩を借りて苦悶を浮かべている。どこかにひどい火傷でも負ったのかもしれない。
潤はそれを支え、血相を変えて銀朱に呼びかけ続けている。
「――天狗」
銀朱が先にこちらに気づいた。
銀朱は憎しみと狂喜を当分に滾らせ、潤の肩から離れて佇立した。
「梵天さん……」
「大丈夫。君は下がっておいで」
梵天は臆することなく銀朱と対峙した。
「ようやく貴様に一太刀報いる日が来た。この呪い≠煦縁も、今日で終わりにしてくれる」
「俺と君の間にそうそう大した因縁はないと思うけどね。その顔の傷だって、さて、どんな経緯で付けたやら」
銀朱がぎり、と奥歯を噛みしめた音が聴こえた気がした。
「忘れたとは言わせない」
顔の右反面の包帯を剥ぎ取った。
「あの日、貴様がつけた傷だ!」
くうはひゅっと息を呑んだ。
包帯の下にあったのは、見るも恐ろしい傷痕。赤黒い凝血の上からは新しい傷による鮮血が迸り、治ることのない患部は膿んで爛れていた。
一体何をどうすればあんな傷ができるのかも分からない。それを、――梵天が?
「貴様は私に呪いを残した。その呪いのせいで傷は一向に治らない。血が止まらず痛みも消えない。しまいにはこうして顔半分に広がった。この傷を見ては思い返しましたよ。妖がいかに有害かを、どうあっても妖は排除すべきなのだと!」
銀朱の肥大し熟成したどす黒い感情に、くうは堪らず近くにいた空五倍子にしがみついた。
憎しみを悲しいと思った時はあっても、怖いと思ったのは今が初めてだ。
「俺がかけた呪い……?」
くつくつ。梵天は心底おかしそうに身体をよじって笑い出した。
「何がおかしい!?」
「死に際なら百歩譲ってそんな愚行に走ってもいいけど、あの圧倒的有利な状況で、生殺与奪権が俺にあったあのさなかで、俺がそんな小狡い真似をしたと本気で思っていたのか? 怒りを通り越して笑うしかないじゃないか」
銀朱は憎らしげに口の端を噛みしめる。その仕草は梵天の語る所を真実だと教えた。
「貴様以外の誰にこんな芸当ができるんだ!!」
梵天は一瞬で笑みを消した。
「一人いるじゃないか。ここに。――君自身だ」
そして、銀朱をまっすぐに糾弾した。
銀朱は屈辱に顔を真っ赤にして怒鳴り返した。
「ふざけたことを……!」
「
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ