暁 〜小説投稿サイト〜
あげは
3部分:第三話
[2/2]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話

 妻に誘われ部屋に戻った。そして枕を並べて眠るのであった。吉原での眠りとは違っていた。静かで穏やかな眠りであった。
 暫くまた忙しくなった。今度は仕事であった。その為吉原へはまた足が遠のくことになった。三吉のことは忘れてはいないがそれでも行くことができずに悶々とすることになってしまった。
 そんな日々が続いたが彼は安心していた。三吉の容態は軽いとのことなので安心していたのだ。だが会えないのはやはり辛かった。それで悶々としていたのである。
 だが忙しいのも何時か終わる。仕事も一段落ついた。十郎は空いた時間を見計らって店に向かった。家の者に身請けの金を持たしたうえである。
「ようやくこの日が来ましたなあ」
「そうだな」
 後ろの車で金を轢く家の者に応えた。流石に呼び出しを身請けするとなればそうそう見られる額の金ではない。だがそれでも彼はそれだけの金を用意したのである。そしてそれを持って吉原に入ったのである。身請けはもう決まったようなものであった。
 だがそれは適わなかった。店で彼を待っていたのは思いも寄らぬ言葉であった。
「それはまことか」
「はい」
 主は沈痛な声で彼に応えた。
「言いにくいことですが」
「病は軽いものではなかったのか」
 彼は主にそう問うた。
「そなたもそう申しておったではないか」
「確かにそうでしたが」
 主の言葉は過去形であった。
「昨日の朝急に具合が悪くなりまして」
「それまではどうだったのじゃ」
「ようございました。そろそろ店に戻ろうかという話をしておりましたし」
「それで。急になだというのか」
「左様で。身体がよくなったからと酒を飲んだのがまずかったのでしょう」
「酒か」
 十郎はそれを聞いて顔を顰めさせた。
「酒の毒で」
「そちら様も御承知の通り三吉は酒が好きでして」
「うむ」
 それは彼もよく知っていた。いつも一緒にいる時は互いに潰れるまで飲んだものであった。


[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ