2部分:第二話
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が進んだ。そして今はその準備にも追われている。昨夜の三吉との遭いそめは暫しの別れの意もあった。それが済んでから貰い受けるつもりであったのだ。
「金はある」
十郎は言った。
「あとはまたここに来るだけじゃ」
そう言って前を向き江戸の街へと戻った。そしてそのまま現実の世界へとまた入るのであった。
そして婿入りの用意に入った。それと仕事が忙しく吉原には足が遠のいた。だが三吉のことは一日たりとも忘れたことはなかった。そしてこれが済んだら本当に店に行き貰い受けようと決意していた。
婿入りは無事済んだ。そして気持ちも周りも落ち着いてきた。十郎はそれでようやく時が来たと思った。金を持って三吉のいる店に向かったのである。ところが。
「何と」
それを聞いて思わず呆然となってしまった。
「まことであろうな」
店の主人にそう問う。
「嘘なぞ申しません」
主人は畏まってそう答えた。
「今は。そういうわけでして」
「左様か」
十郎は憮然としながらもそれに頷くしかなかった。
「病か」
「はい」
主人は答えた。
「瘡毒の床か?」
吉原では最もよくある病である。
「いえ」
「では労咳か」
「それでもないです」
「では何じゃ」
「そこまでは我等もわかりませんが」
主人は申し訳なさそうに述べた。
「大した病ではないので。少ししんどいとかで」
「何だ、その程度か」
十郎はそれを聞いてすっかり安心してしまった。
「はい。ニ三日もすれば治ると思いますので」
主は言った。それを聞いて十郎は完全に安心した。
「ではその時に来ればよいな」
「はい」
「瘡毒でも労咳でもなければまずは安心じゃな。では金はその時にな」
「は。宜しくお願いします」
「邪魔したな。ではまた」
それで店から出た。他の店にも寄らずにそのまま吉原を出る。もう彼は三吉以外の花魁には興味がなくなろうとしていたのであった。
「のう」
車を轢く家の者に声をかけた。
「はい」
「屋敷に帰ったらな。褒美をやるぞ」
「褒美ですか?」
「そうじゃ。それを持ってここに戻るがいい」
「旦那様の奢りですか?」
「左様。折角金を持って来てもらったのに無駄になってしまったからな」
彼はおおやかに笑いながらこう述べた。
「弾んでやるからのう、いい女と遊んで参れ」
「有り難うございます」
「ただし、瘡毒には注意するようにな」
彼はこう付け加えることも忘れなかった。
「あれはかかると怖いからのう」
「鼻が落ちるのですよね」
「それだけではない」
彼はまた述べた。
「身体も腐る」
「腐る」
「そして頭に来るのじゃ」
「恐ろしい毒ですね」
「そうじゃ。じゃからそれには気をつけるようにな」
「わかりました」
実は『
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