2部分:第二話
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れが吉原の陰であった。
「だから飲める時に飲むでありんすよ」
「さよか」
「あい。それに飲めば見えますし」
「何がだ?」
これは十郎にもわかりはしなかった。
「夢が」
「夢なら寝れば見れるだろうに」
「それが違うでありんすよ」
三吉はにこりと笑ってこう言った。白粉の下の顔がほんのりと赤くなっていた。そのせいで顔がうっすらと赤く見えた。
「お酒が。わちきに夢を見させてくれるんでありんすよ」
「夢をか」
思えば妙な話である。ここにはその夢を見に来ているのだ。それでこうしたことを言われるとは。不思議な感じがしたが自分も見てみたいものだと思った。
「ではわしももっと飲んでみるか」
十郎はそれに頷いて言った。
「酒をな。もっと注いでくれ」
「あい」
「そして夢を見ようぞ。二人でな」
そして二人はそれから飲みあかした。最後には酔い潰れた。そこまで飲んだのであった。
気がつくと朝になっっていた。十郎は店を後にして吉原を出る。もう提灯の火は消えて朝日が見えようとしていた。その赤い光を背に浴び、烏の鳴き声を聞きながら吉原の大路を歩いていた。
「朝烏か」
まだ酒は残っている。だが烏の声を聞くとその酔いも醒めてきた。
吉原の朝を告げるのは鶏ではない。烏であった。その黒い羽根を見せつつかあかあと鳴いていた。そして門のところで十郎を出迎えていた。
その門を見上げる。烏達は時折飛ぶ仲間を見送りながら鳴いている。十郎はそれを見て自分が狭間の世界から現実の世界に戻ろうとしていることを感じていた。
「この門を越えちまえば」
彼は言った。門に入る。
「わしは起きたということじゃ。夢からな」
そして門をくぐった。吉原から出た。
「お三」
三吉のことを呟きながら後ろを振り返る。
「もうじきじゃ。待っておれよ」
そして言った。
「夢の世界からこちらの世界に出してやるからな。そしてずっと一緒じゃ」
この時は物分りのよい兄夫婦と婿入り先に感謝した。女遊びは綺麗で程々に、それがわかってくれていた。
彼が遊ぶのは女だけではなく男も遊んでいた。そうした店にも行く。だが貰い受けまでするのは三吉だけであった。彼女のことは夢ではなく現実であったのだ。そして兄達もそれがわかってくれた。これは十郎の普段の行いもよいからであった。
確かに遊びもするが武道も学問もする。夜は夜、昼は昼でしっかりと分けていたのである。武士としての務めを果たしてこそ夜の夢の中に入ることが出来る。彼はそう考えていたのである。
だからこそ婿入りも適ったのである。それも四千七百石の大きな家であった。将軍家が三河にいた頃からの家であり今でも幕府において大きな力がある。十郎の実家とも馴染みである。
向こうも十郎のことは知っていた。それで婿入りの話
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