魔石の時代
第一章
始まりの夜4
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也が腕を組む。
「何よ?」
「別に。ただ、何かあいつと話している方が楽しそうだと思ってな」
思わずきょとんとしてしまう。そのあとで吹き出してしまったのも、不可抗力だ。
「なぁに? 弟相手にやきもち?」
そっぽを向く恭也の頬を突いてやる。全く可愛らしい。さて、どうしてくれようか。
「そんな事言われてもね〜。誰かさんだって今日は水着の女の子に夢中だったしね〜」
「ばっ! あれは周りを警戒してただけだ!」
「そうかしら? でも、実際見つけたのはなのはちゃんだしねぇ」
「仕方ないだろ。心眼は使い慣れてないんだ」
「それならなのはちゃんはそもそも使えない訳だし。それに魔法使いになったのもつい最近でしょ? そのなのはちゃんに後れを取るなんて、一体何にそんな集中力を乱されたのかしらね〜」
ぐぐっと、恭也が退くのを感じる。まぁ、実際は犯人探しより私達の護衛に注力していたからだろう。それくらいの事は分っている。それを素直に言えないところが彼らしい。
とはいえ、
「せっかく新しい水着だったのにな」
それどころではなかったのは百も承知だ。けれど、何か一言欲しかったのも事実。実は少しだけ冒険したものだったからなおさら。
もっとも、器用な愛の言葉なんて彼には似合わないだろうが。
「それはもちろん、気付いていた」
そっぽ向いたまま、恭也が言った。
「綺麗だったぞ。……他の人なんて目に入る訳ないだろ」
今度言葉に詰まったのは、私の方だった。まったく、酷い不意打ちだ。せっかく抑え込んでいたのに。義弟や義妹が危険な役目を背負っている中で、私達だけがのほほんとしている場合ではないのに。
そこでふと魔猫が一匹だけ部屋の片隅に留まっているのに気づいた。紅い瞳がにやりと笑ったように見える。それが錯覚なのかどうなのかは分からない。だが、それでも。
『それじゃあ、ごゆっくり。素敵な夜を』
唆すように、義弟の意地の悪い声を確かに聞いた。
ああ、ひょっとしたらばれているのだろうか。私達夜の一族特有の、そういう時期だって。だとしたら、勘が良すぎるのも考え物だ。
(今度会ったらとっちめてやるわ……)
単なる濡れ衣だろう。と、冷静な自分が呆れかえる。とはいえ、そんな冷静ささえ、愛すべき邪悪な魔法使いの囁きの前では無力だったが。
……――
「やれやれ。これで借りは返したぞ、恭也」
あの二人が実際にこれからどうするかは分からないが、やるだけの事はやった。邪魔をしたデートの埋め合わせができるかどうか、あとは兄次第だ――と言ってしまうのは、さすがに即物的すぎる気もするが。まぁ、それも含めて上手くやってもらいたいところだ。
(あの気配からして、多分そろそろそういう『周期』だろうしな)
詳しい事は知らないが、どうやら吸血鬼には吸血鬼なり
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