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その魂に祝福を
魔石の時代
第一章
始まりの夜4
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が、彼はあっさりとそれに応じる。
「買い物を頼まれた帰りに見かけただけだ。どこかで見たことのあるチャンバラ馬鹿が、また例によって随分な美人を連れて歩いているから、ちょっと冷やかしに来たんだよ」
 邪魔したな。そう言って、光は壁から飛び降り、さっさと歩き出す。手にぶら下げたビニール袋が揺れ、ガザガザと音がした。本当に買い物からの帰り道らしい。
「そうか。……なら、いいんだが」
 その背中に、恭也が小さく呟く。それが聞こえたとも思えないが、光はふと足を止めた。そのまま振り返り言う。
「それで、一体俺に何を知られたくなかったんだ?」
 一瞬の気の緩みを突かれ、恭也がはっきりと言葉に詰まった。その姿を見て、光は笑った。年相応とは言えないが――それでも、優しい笑みだった。
「確かに彼女も普通の人間じゃあないようだが……俺がそれを言うのは馬鹿馬鹿しいと思わないか?」
 そんな事を言い残し、光はさっさと帰って行った。彼は、『彼女も』と言った。それはつまり、彼自身も普通ではないと言う事なのか。
「……笑わないで聞いて欲しいんだが」
 困ったように頭を掻いてから、恭也が言った。とはいえ、それは余計な心配だ。少なくとも、私は恭也の言葉を疑ったりしない。もちろん、笑ったりもしない。
「あいつは、魔法使いなんだ」
 ……――
 結局のところ、恭也の両親はあっさりと私を受け入れてくれた。その一因として彼――御神光の存在は大きいのではないか。そう思う。だとしたら、感謝してもしきれない。
「いや、ただ単にあの二人が変わり者なだけだろう」
 俺がいなくても、きっと受け入れられていたはずだ。光本人はそう言っていたが。
 ともあれ、将来の義弟との関係はその後も良好だった。だから、最初に恭也が何をそんなに心配していたのかを知ったのは、ずいぶんと後の事になる。そして、私が『魔法使い』としての御神光と出会うには、それと同じだけの時間が必要だった。
 幸いにも。お互いの素性が明らかになったその後も私達の関係は変化しなかったが。いや――少しだけ変化があった。だから私は、今ここにいる。
「夜這い、かしら?」
 明かりを落とした部屋の中で、ティーカップを戻しながら呟いた。それを待ち構えていたかのように、雲にさえぎられていた月の明かりが部屋に差し込む。
 幽かなその光のなかに彼はいた。
「確かに色々と爛れた関係に縁がないとは言わないが……それでも、兄嫁に手を出すほど恥知らずじゃあない」
 しっとりと月光を吸い込みながら、黒衣をまとったその魔法使いは言った。相変わらず大人びた事を言う。可愛い義弟の来訪に、思わず苦笑がこぼれた。とはいえ、いつまでも笑っている場合ではない。『魔法使い』御神光の来訪となれば。
「何か問題でもあったかしら?」
 私も『月村家当主』月村忍と
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