魔石の時代
第一章
始まりの夜4
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う。だが、明らかに何かを警戒している。
「いや……」
どうかしたの?――平静を保ったふりをしながら、問いかけると恭也は曖昧に言葉を濁した。やはり、家族に紹介するのには躊躇いがあるのだろうか。途端に、不安が胸を締めあげた。覚悟が足りていない。それを痛いほど思い知った。
「大丈夫だ。父さんも母さんも、絶対に分かってくれる。だから、心配しなくていい」
表情に出ていたのだろう。慌てて恭也が言った。それなら、一体何をそんなに心配しているのか。言葉にできないまま視線だけで問いかける。
「それは、何て言うか……。まぁ、弟、かな?」
困ったように、恭也が言った。面識こそないものの、彼に弟がいるのは知っていた。彼と直接の血の繋がりはないらしいことも。どうにも彼らしくはないが……その辺りに理由があるのだろうか。
「何でだ? これでも一応、兄の恋路を応援するくらいの甲斐性はあるつもりなんだが」
その声が聞こえたのは、ちょうどそんな時だった。声のした方向へと、視線を動かすと近くの壁の上に、彼はいた。壁の上で器用に胡坐をかいて座り、頬杖までついた姿で。……ほんの一瞬前まで、誰もいなかったはずなのに。
「光……」
弟の名前を呟きながら、恭也が身構えるのが分かった。良く分からないまま、二人を交互に見やる。と、彼は小さく――妙に大人びた仕草で笑った。
「確かに大層な美人だが……心配しなくても取らないぞ? さすがに俺も、兄嫁に手を出すほど恥知らずじゃあない」
これが子どもの発言だろうか。思わず目が丸くなった。
見たところ、年の離れた私の妹とそういくつも年は変わらないはず。だというのに、言動の一つ一つが妙に大人びている。
「兄嫁ってお前な……」
「何だ、まだ遊び足りないのか?」
「遊び足りないってお前な。俺を一体何だと思ってるんだ?」
「無自覚天然の女誑し。その犠牲者は数知れず、ってところかな。一人に絞ったのは良いが、夜道には気をつけろよ。月のある夜ばかりじゃないぞ?」
「忠告ありがとう。……だが、どうしてそうなる?」
驚き固まったままの私を他所に、兄弟はそんな会話を始める。一体どちらが兄なのやら。そんな事を思うくらいに、光は大人びていた。しかも、兄の悪癖を良く理解しているようだった。まぁ、恭也の性格からして遊んでいるなんて事はないだろうが――それでも、私自身、我ながらよくあの競争率を勝ち抜いて射止められたと思う。
「それで結局、彼女は兄嫁って事でいいのか?」
「いや、まぁ……その通りなんだが」
できれば、そこははっきり頷いてほしかった。赤面し、そっぽを向きながら小声で呟くも可愛かったので許すが。
「ところでお前、何でこんなところに?」
わざとらしい咳払いの後で、恭也が露骨に話を替えようとする。それに気付かなかったとも思えない
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