魔石の時代
第一章
始まりの夜4
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1
「魔法を見せてほしい」
士郎がそう言ったのは、退院を済ませてしばらく経ったある日の事だった。
あまり気が進まない。それが本音だった。
理由の一つは、自分の魔法と言うのは結局のところ殺しの技だという事だった。それはこの世界では、なおさら異端である事くらいはすでに学んでいる。とはいえ、この一族を前であるなら、別に気にするような事でもあるまい。何せ彼らが会得しているのは、相棒と同じ剣術だ。業の深さなら似たようなものだろう。
もう一つの理由としては、この世界には魔法など『存在していない』と言う事だ。人間は理解できないものを恐れる。セルト人の悲劇を再現したくなければ、可能な限り秘匿としておいて損はない。と、説明をした。だが、未知への好奇心という欲望の前には無力だった。結局は修練所――道場まで連れて行かれる。
「父さん、どうしたんだ?」
道場には、この家の長男――恭也がいた。別に不思議でも何でもない。士郎の退院を期に、以前よりはいくらかマシになったが、大体ここが定位置だった。
「光に魔法を見せてもらおうと思ってね」
士郎が言うと、恭也は不審そうな顔をした。というより、露骨に胡散臭そうな顔でこちらを見やった。
「魔法なんてある訳ないだろ?」
正論だった。少なくとも、この世界では。是非ともその調子で父親を説得してもらいたい。探るような視線には気付かないふりをして、沈黙を守る。
とはいえ、分が悪い事は分かっていた。士郎を蘇生させた時点で、まず尋常ではない。実際、病院の医師たちへの説明……言い訳にもずいぶんと苦労したものだ。それこそ、最終的には魔法で誤魔化す羽目になるほどに。そのうえで、恭也は『偽典リブロム』の存在も知っている。……まぁ、少なくともそういう不気味な本がある、と言う程度には。
本当にそんなものがあるというなら見せてもらおうじゃないか。結局、そんな形で話はまとまってしまったらしい。
やれやれ、面倒な事になったものだ。声にせず呻く。魔法を見せろと言うが、そもそもどんな魔法を見せればいいものやら。室内である以上、魔力弾や魔人召喚は論外だろう。機雷変性や爆弾変性系の魔法なら、とも思うが下手に触られれば厄介だ。血魔法は、壁中穴だらけの血塗れになる。それに、体力の消耗も激しい。ただでさえ、ここには最近体力の消耗を激しくする異境を構築したばかりなのだから。こんな事で余計な体力は使いたくないと言うのが本音だった。そんな理由で捕縛や空間系の魔法も却下だ。誘惑系は……何であれ、あとで余計な波紋が立ちかねないからやめておこう。となると、吸引魔法か、武器や鎧、盾など装備系の魔法が妥当だろう。この世界の『魔法』という概念からはかけ離れるだろうが。
武器魔法。それで、ふと思い出した。この状況では最も適切なものがある。
条件がある
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