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乱世の確率事象改変
詠い霞むは月下にて
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しまった畏れの暴発は、たった一つのはけ口を失うと自身の崩壊へと向かわせる。
 ねねちゃんだけを引き離せば、恋さんが周りに利用されるのは確実。心を閉ざしていたら、言う事を聞いて戦場で戦うだけの怪物になっているのだからそれも詮無きこと。
 大丈夫と半々の可能性に縋って、恋さんだけを信じる事は出来ない……というよりも、私は恋さんの死者への想いの優しさを信じてる。
 だから私の大切な人達が皆助かる為には、彼が戻らないと何も始まらない。記憶が戻った彼となら、恋さんはしっかりと向き合える。
 問題は彼が戻った時に耐えられるか。それだけは……私と詠ちゃんだけじゃなくて、この軍の皆さんに手伝って貰うしかない。
 絆を繋いで、安息の場所を認識して、もう一人で背負わないでいいと知って……『彼女』が代わりに背負ってくれる事を理解させるしかない。
 チクリ、と胸が痛んだ。
 彼が壊れたのは雛里ちゃんへの懺悔と自責から。そこにはどれだけの愛情があったんだろう。
 彼にとって、雛里ちゃんを自分の為に縛り付けてしまったという事柄は、雛里ちゃんの事を認識出来なくなる程重かったんだ。
 どれだけ強い想いがあって、どれだけ雛里ちゃんの事を想っていたんだろう。
 それを私は……曖昧にしてしまうんじゃないだろうか。
 そして私は……今のあの人のことすら……

「あかんな、それ。恋は月と出会って変わってから想いを繋ぐ事に拘っとった。『人』に戻れたたった一つの指標を大切にしとったから、徐晃は恋に殺されるしかあらへん。徐晃も強いけど本気の恋はケタが違いすぎる。曹操軍の将全員で取り押さえても誰かが殺される。取り押さえても、恋の心はもう戻らんくなるかもしれへん」
「秋斗も同じような理由で自分を殺しちゃうから……似たモノ同士なのにね」

 二人が言葉を零すのを聞いて、思考に潜るのを辞めた。
 考えても、思い詰めても何も変わらない。私は彼に戻って欲しい。想いを繋ぐ皆の為に……私も含めて。

「そういや徐晃隊、今は鳳統隊やな、そいつらも想いを繋ぐ事に命掛け取ったなぁ。副長の死に様もそんなやったし」
「あんた副長を知ってるのっ!? ……どんな……だった?」

 詠ちゃんの声は悲痛に呑み込まれていた。

――徐晃隊の中でも一番親しかった副長さんの死に様……彼が一番聞きたかったはず。

 そこで思い至る。副長さんは生きてたのか、と。
 驚愕に目を見開いて霞さんを見ると、ほんの少し羨望を抱いていた。
 つらつらと、副長さんがどんな風に見つかって、どんな想いを残したのかを霞さんは話してくれた。
 それは穏やかながら鮮烈な最期。徐晃隊の在り方を体現したような、徐晃隊の副長に相応しい死に方だった。
 気付かぬ内に、私と詠ちゃんの目から涙が流れていた。

「雛里から
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