トワノクウ
第二十八夜 赤い海(二)
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上がった。おかしくて堪らなかった。
本気で来いと言った相手も、言われた自分も、ちっとも本気ではない。相手を傷つける覚悟がない。
何合も競り合い、ぶつかり合う。それでも、くうにも、潤にも、傷一つつかない。無駄に体力を消耗するだけ。滑稽だった。
(いい加減に腕が重い。そろそろ決着をつけないと、腕力が劣るくうの負けは見えてる)
ぜいぜい、と胸を鳴らして呼吸しながら、決めた。どんな結果になっても次で終わらせよう。
くうは全ての力を振り絞って潤に斬りかかった。
潤は、くうの全力を込めた一閃をあっさりと打ち払い、がら空きとなった胴体に斬りかかろうとした。
胴が二つに断たれる――はずだったものが、寸前で止まった。
否。止めることを余儀なくされた。
くうと潤、二人の背後で燃えていた本殿が、さらに内側から破裂するように崩壊したのだ。
悲鳴や叫びがさらに音量を増した。ただ事ではなかったものが、もっとただ事ではなくなった感じだ。
「結界が……!」
潤が呻くように空を見上げる。くうも同じくするが何も見えない。
「――銀朱様」
潤の目からは戦意も、くうの姿すらなくなっていた。
「あ、潤君!」
潤は一目散に本殿へと駆け出した。くうを置いて、銀朱のためだけに行動した。
それは潤に斬られるよりも辛い事実だった。
どれだけくうが潤を好いていようが、潤にとってのくうは銀朱の足元にも及ばない存在だと突きつけられたのだ。恋する乙女として平気ではいられない。
「くう!!」
「白鳳!!」
はっとふり返る。今の爆発で結界とやらが緩んだのか、天座の三者がくうの下へ駆けつけてくれたところだった。
「無事だな? 死んでねえな?」
「大丈夫です。それより皆さんこそ、神社の敷地に入って大丈夫なんですか?」
「さっき敷地のほうの結界が壊れたからね。今ならどんな雑妖でも入れる」
「――銀朱さん」
つい呟いた。社の本殿が爆発した時、潤は銀朱の名を口にして去った。この神社の長の銀朱に危機があったのだとしたら、結界が切れたのも肯ける。
「もしかして、さっきの爆発は、皆さんが?」
「いいや。俺達は何もしていない。結界が切れるまでは中にも踏み込んでいなかった」
梵天が的確にくうの欲しい答えをくれた。
「本殿は三重結界だ。どれだけ低位の妖でも、外側から侵入すれば即座に焼け死ぬ」
「じゃあ、あれは外からの攻撃なんかじゃなくて、内側、から? で、でも誰がですか!? そもそも外から入れないのに中にいるなんて、とっても矛盾論理です!」
梵天は答えることなく先に進み始めた。
くうはすっきりしないながらも、梵天の後ろに着いて行った。
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