トワノクウ
第二十八夜 赤い海(二)
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乗り込んだ。それだけのことをしてくれた。
だが、潤は違う。
全ては銀朱のため。
中原潤は仕える主人のため、あらゆる非道を成す。本人はそれらに全く無自覚のままで。
(何でこんなの|のために来たんだろう。梵天さんに不快な想いをさせて、天敵の坂守神社まで連れてきてもらって。得られたものは、好きな男の子が変わり果ててたって事実だけ)
くうは震えながらも大きく息を吸い、吐いた。
「一つ聞かせてください。くうを使った治療、銀朱さんは承知してるんですか」
「そ、れは」
潤の目が泳いだ。否、だ。
「大方、妖に治されるなんて姫巫女のプライドが許さない、ってとこじゃないんですか」
潤は答えない。
(いじわるだって思う。梵天さんみたいに、私も見返りがなくても救える人になりたかった。でも、私にはできない。潤君が許せない)
「助けて、くれないんだな」
「っ、助けたくても、それを拒んでる人に、どう手を差し伸べろって言うんですか!」
「それも――そうか」
すらり。潤は刀を上段に構えた。戦うつもりなのだ、くうと。
同じ学校の同級生で、同じクラブの仲間だった。共に歌う仲間だった。初めて恋を知った相手だった。
「なら、力尽くだ。恨むなら妖になった自分を恨んでくれ」
もう、戻れない。
羽毛を一枚、叩いて手を広げる。現れた大鎌を握り、くうも構えた。
「自分のことは恨みません。こうなったから助けてあげられた方がいるから。でも、今こうする潤君のことは、恨むかも、です」
「だろうな――いいぜ。本気で来いよ。俺も本気でお前を殺りに行く」
くうは、潤は、石畳を蹴り、互いの得物をぶつけ合った。
真剣を持った人間と戦うなど初めて――というわけでもない。数多の体感型ゲームを遊んだ篠ノ女空には、これしきの修羅場は慣れっこだった。
潤の剣閃は、鋭く、速い。だが、避けられなくも受け流せなくも、ない。ゲーム脳を全開にしたくうに敵はなかった。
だが、唯一できないことがある。
大鎌を揮い、斬りつける。腕を斬る、と確信したとたん、くうの腕から力が抜けた。その間を縫って潤はくうにピストルを発砲した。くうは体を横にずらして躱した。互いに間を空ける。
そう。篠ノ女空に、中原潤は傷つけられない。
攻撃が当たる瞬間に、迷ってしまう。傷つけることをためらってしまう。
(でも。だったら、潤君だって。露草さんとやり合った時くらいのが「本気」なら、私なんてとっくにKOしてるはず。潤君も、同じだ。私を傷つけられないんだわ)
口角が勝手に
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