第四章
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「それじゃないのなら仕方がない」
「そうですか」
「そしてこのワインでも料理でもなかった」
「どちらでもなかったですか」
「けれどいい気分転換にはなったさ」
しかし満足もしているジョバンニだった。
「何か憂いがあったら飲むに限る」
「お酒ですか」
「それも楽しく飲む。やっぱりこれだよな」
「それも粋なんですね」
「その通り。まあ今は」
ここでまた美女の方を見る。一人で酒を飲むその美女の黒髪が目に入った。漆黒の絹を思わせる艶の。波がかった長い髪が。
「しかしな」
「しかし。今度は何ですか?」
「いや、やっぱりいいか」
言葉を途中で止めてしまったジョバンニだった。ミショネにとっては実に歯切れの悪い進展あった。それなので思わず問い返してしまった。
「何かあるんですか?」
「やっぱり絵がな」
話に出すのはやはりこのことだった。
「どうにも。思い浮かぶものがな」
「ありませんか」
「やっぱり飲んでもそう簡単にはいかないものだ」
顔はもう真っ赤になっているがろれつはそのままだった。酔いは全体としてそれ程ではなかった。見ればミショネものである。
「難しいものだね、本当に」
「まあまあ。それよりもですね」
「それよりも?」
「そっちのケーキはどうですか?」
気分転換にと尋ねたのは師匠が食べているケーキのことだった。
「それ。美味しいですか?」
「素材が実にいいね」
弟子に応えてまずはこう言うジョバンニだった。
「味は最高だよ」
「最高ですか」
「その素材をよく活かしていて。やっぱりフルーツケーキはこうじゃないとな」
「そんなにいいんですか」
「そっちの苺のタルトはどうだい?」
質問に答えてから自分からも質問してきた。
「見たところそちらもかなりの味みたいだけれど」
「わかりますか」
「食べ具合でね」
そこから味を見抜いているのは流石だった。美食を愛するイタリア男らしい。
「わかるものさ。美味しいのか」
「美味しいですよ」
食べているミショネ自身もそれを認める。
「苺の味の使い方が。最高です」
「果物だけでも、スポンジだけでも駄目だな」
「そういうことですね」
「思えばあれだよな」
ケーキを食べつつワインの残りを口に含んで言うジョバンニだった。
「女の人にしてもだ」
「今度は女の人ですか」
「そうさ。艶やかなだけじゃ駄目なんだよ」
自分が食べているケーキを見つつ述べるのだった。
「もう一つのものがないとね」
「もう一つのものですか」
「それが何かだけれどな」
ケーキを食べ終わってからふう、と溜息を吐き出した。
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