第二十三話「多色の侵入者」
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の塊を難なく防いだ。
瞬動で距離を大きくとる。
「四体目の精霊だと……?」
世界を旅していた俺でも三重契約の精霊使いと手合わせしたことはある。が、四重契約者など見たことも聞いたことも無い。
驚きを禁じえない俺に男は唇の端を歪めて嗤った。
「そう驚くことでもないだろう? 魔王スライマンはかつて七十二柱の精霊を使役したっていうぜ?」
「詭弁だな」
「そうかい? まああんたがそう思うならそれでいいさ。俺が魔王の後継者ってのは変わらない事実なんだからなぁ!」
男の踏み込みに合わせて一呼吸早く動く。
初動に合わせた間合いの蹂躙。夕凪流活殺術枝技――、
「不退侵歩」
「……っ! チッ!」
出足を潰された男は外側に大きく踏み込んだ。否応無く隙が出来る。
「ふっ!」
無防備な横腹に左ストレートを放つ。
「風精霊!」
男の横腹の前に風の渦が出現する。
ぴたっと拳を止め、多連瞬動で背後に移動する。
「鉄山靠っ」
音も無く一瞬で立ち位置を変えた俺は状況把握が出来ていない男の背中に肩口から激突した。
内気功で内臓も鍛えているため、反動によるダメージは皆無。
ドゴン、ともズガンともつかない音を響かせて男は吹き飛んだ。
「ぐわぁぁぁ……っ!」
すぐさま受身を取って起き上がるが、受けたダメージが大きいのだろう。
荒い呼吸を繰り返しながら男は膝をついた。
「こ、ここまでとは、流石の俺も思っていなかったぜ……」
「ならばどうする? 大人しく降参するか?」
「ハッ! 馬鹿言え」
ペッ、と血を吐き捨てる男。
その目には未だ力が残っていた。
「よーく分かったぜ。あわよくばあんたの首を手土産にと思ったが、今の俺じゃあ到底無理だ。だがまあ、こいつは手に入ったんだしここは大人しく退くとするよ」
そう言って懐から取り出したのは小さな黒い石版だった。
「……あれが奴の狙いだ。学園の図書館から奪われた、封印指定の機密資料。特殊な精霊機関で解読でき、高密度の情報が書き込まれてると聞いている」
エリスが魔槍を構えながら呟いた。
「そ。いわゆる機密文書ってやつさ。俺の目的はこいつなんでな、無理してあんたと戦う必要は無いってわけだ」
「大人しく逃がすとでも思うか!」
凛とした声で一喝するエリスだが、男はニヤッと嗤って応える。
「アンタじゃ俺の相手になんねぇ。そして、リシャルト・ファルファーにはある弱点がある」
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