僕の生まれた理由
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てお嬢様の側に来た。
「あら、貴女達も来たのね」
「はい」
僕とケムンパスさんは挨拶を返した。お嬢様にはにゃあ、とでも聞こえているのだろうか。
「じゃあいいわ。そこにいててね」
「いいね」
「ええ」
ケムンパスさんに頷き返した。そして箱に目をやった。きちんと座って見上げた。
お嬢様は箱に猫を映していた。その猫には凄く見覚えがあった。
「あ・・・・・・」
「わかったかい」
ケムンパスさんが僕に声をかけてきた。
「はい・・・・・・」
僕はまた頷いた。そこはお風呂場だった。そこに僕がいた。
「?何だろ、これ」
お嬢様は手を少し動かした。そこには小さな人間の言葉で何か書かれている。僕はその時思った。
(お嬢様、そこは見ちゃ駄目)
と。けれどケムンパスさんはそれを見て首を横に振った。
「ここまで来たらもう引き返せないよ」
「そうですよね」
それは僕が一番わかっていた。そしてお嬢様を止められないのも。
「・・・・・・・・・」
お嬢様はそこに映っている絵を見て言葉を失っていた。顔が真っ青になっていた。
「何これ・・・・・・」
そこには僕が映っていた。耳や足、そして尻尾を切られている僕が。前の僕がそこにいた。
「酷い、誰がこんな・・・・・・」
「どうしてあんたがここに来たかわかったね」
「ええ」
ケムンパスさんの言葉にまた頷いた。
「前のあんたはね、本当に酷い目に遭ったんだよ。それで神様が可哀想に思われて生まれ変わらせてくれたんだ」
「そうだったんですか」
僕はその時にやっとわかった。どうしてタマさん達が野良猫だった時の気持ちがわかったか。人間と聞くと耳や首が痛くなったのかを。そしてこの姿なのかも。全部わかった。
けれどお嬢様は違っていた。真っ青になって震えていた。
「お嬢様にはこれ以上見てもらったら駄目ね」
ケムンパスさんはそう言うとちょっと動いた。そしてお嬢様にちょこん、と前足で触れた。
「これでいいからね」
「何をしたんですか?」
「あんたの前のことを忘れてもらったのよ」
ケムンパスさんはそう答えた。
「覚えていていいことじゃないからね」
「はい」
「あとは絵も消してね」
ひょい、と机の上に飛び上がるとそこにある細長いボタンの集まりを足で押していた。そして絵を消してしまっていた。そこには全然別の絵があった。何故か犬のものだった。
「まだこっちの方がいいでしょ」
「ええ、まあ」
「あんたのあんな姿よりはね。犬だったらあたしが何とかできるから」
「そうなんですか」
「犬にも負けたことはないよ」
ケムンパスさんは僕の言葉に応え自信たっぷりにそう言った。
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