鼠の奇跡
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めを食べて満足しているようであった。そのまま目をとろんとさせていた。
「眠いのか」
彼自身もであった。もう夜も遅かった。そのまま寝ることにした。寝転がって眠りに入った。そしてそのまま寝てしまったのであった。
最近夢を見なくなっていた。徹底的に飲んで死んだように眠っているか、最近は働いて疲れていたので泥の様に眠っていたか。どちらにしろ夢なぞ見られる状況ではなくなっていたのであった。
だがその日は眠っていて夢らしきものを見た。ふと枕元に誰かが立っていたのであった。
「ん?誰だい?」
「俺だよ」
「俺だよって。誰なんだよ」
目を向けるとそこには二人の男が正座して座っていた。黒い服を着た出っ歯の男達であった。どういうわけか二人共そっくりの外見をしていた。痩せて小柄なところもそっくりだった。
「わからないのかい?旦那」
「少なくともあんた達に旦那って呼ばれる記憶はねえな」
梶原は起き上がって二人に顔を向けてそう答えた。
「見たところあんた達は俺を知ってるようだな」
「ああ」
「付き合いがあるからね」
「そう、その付き合いだ」
彼はそこに突っ込んだ。
「あんた達みたいなのははじめて見るんだがな。どっかで会ったかな」
「会ってるじゃないか」
「それなりに長い付き合いだと思うぜ」
「満州でか?」
「違うよ」
二人は笑ってそれを否定した。
「満州なんかにいたら寒くて凍っちまうだろ」
「おいら達はもっと温かい場所にいるのさ」
「とするとここか」
梶原には東京しか思いつかなかった。彼は戦争に行くまで東京から出たことがなかったのである。
「そうさ」
男達はそれを認めた。
「ここさ」
「ここにずっといたんだよ」
「そうなのか」
答えながら記憶を辿る。だがどうにも思い出せない。
「本当にいたのか?」
「ああ」
「悪いがやっぱりあんた達は知らねえ。会った記憶はないな。いや」
ここでふと思った。
「言われてみればどっかで会ったかな。何処だったかなあ」
「まあそれはいいさ」
それについては男達の方から打ち切ってきた。
「わからないんならな」
「そうそう、今はとりあえずはどうでもいいことだし」
「そうなのか」
だったら最初から話をしなくてもいいだろ、と思ったがそれは口には出さないことにした。
「それでな」
「ああ」
二人の言葉に頷いた。
「あんた奥さんと子供についてはどう思ってるんだい?」
「女房と子供のことか」
「そうさ。死んだと思ってるだろう」
「死んでなきゃどうしてるっていうんだよ」
彼は口の端を歪めて笑ってそう答えた。
「二人共死んだだろ。何でもと
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