鼠の奇跡
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ったってのは聞いた」
ここでその顔が暗転した。
「下は火の海だったそうだ」
「そうか」
それを聞いて梶原の表情も暗転した。
「だろうな。そうじゃなきゃ人間は炭にはなりゃしねえ」
「十万は死んだらしいからな。女も子供も関係なくな」
「ひでえ話だな、戦争だっていっても」
「俺の家族は何とか助かったけれどな。けれどあんたのところは」
「もういいさ」
彼は沈んだ声でそう答えた。
「済んだことさ。ふっきれちゃいねえがな」
「そうかい。じゃあこの話はこれで止めるか」
「すまねえな、俺がはじめた話で」
「いいさ。じゃあ商売を続けようぜ」
「ああ」
二人はこうして商売に戻った。その日も実入りがよく彼等は両手に大金を持って家に帰ることができた。
梶原は家へ向かって歩いていた。だがふと立ち止まった。
「待てよ」
最近飲んでいないことに気付いた。気付くと何だか無性に飲みたくなってくるのが人間の性というものである。しかも金があれば。彼はこの時この二つの条件を満たしていた。そして彼は酒を買った。今回は金もあるので真っ当な日本酒だ。焼酎を買おうと思ったがこれにした。久し振りに日本のまともな酒を飲んでみたくなったのだ。
「何かこれ買うのも久し振りだな」
彼は一升瓶を手にしてそう呟いた。つまみにはするめを買った。ふんぱつしたつもりだ。
「何か懐かしいな。満州では米の酒は飲まなかったからな」
コーリャンから作った老酒をよく飲んでいた。アルコールが強くあまり飲まずとも酔うことができる。だが彼はこの酒はあまり好きではなかったのだ。やはり日本酒が一番好きであった。
瓶を抱えながら家に戻った。するとやはり鼠達が待っていてくれた。
「お、留守番してくれてたのか」
「ちゅう」
鼠達は彼に答えるかのように鳴いた。
「悪いな、いつも。けれど今日は御馳走用意してきたからな」
そう言ってするめの足を数本と角のところを手で千切って彼等に与える。彼はするめはその足と角が最も好きであったがあえて彼等に与えた。謝礼の意味でだ。
「まあ食ってくれ。癖があるけれどな」
そう言いながら彼は少し欠けた湯飲みを出してきてそれに酒を入れた。そしてするめを肴に飲みはじめた。鼠達を前にして円を囲むようにして飲みはじめた。
「ふう」
一杯飲んでまずは大きく息を吐き出した。
「美味い。やっぱり日本の酒はいい」
久し振りの酒に何やら感動を覚えた。そしてまた一口飲む。五臓六腑に染み渡るような感じであった。
そのまま飲み続けた。飲み終えた時にはもうするめはなくなっていた。鼠達も食べ終えていた。
「御前達にもやるべきだったかな」
だが彼等はそれには答えない。だがする
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