第百六十九話 三方ヶ原の戦いその四
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瞬く間に魚鱗の陣に変わった、こえには徳川軍の誰もが驚いた。
「何と速い」
「まるで一匹の生きものではないか」
「あれだけ動きが速いとは」
「しかも」
彼等の目の前でそれを行った、そこから言えることだった。
「我等の動きを知っていたか」
「既に読まれていたというのか」
「我等が浜松を出て向かって来ることすら」
「既に」
このことを察した、それで誰もが背筋に寒いものを感じた。
やられる、このことを本能的に察した。徳川軍一万二千の誰もが自分達が今死地にいることを確信したのだ。
そこにだ、さらにだった。
その魚鱗の陣を敷いた武田軍の陣頭にだ、ある男が悠然と出て来た。赤い象の如き馬に乗った大柄な赤い具足の男だ。
諏訪法相の、白毛の兜だった。しかも後ろにはずらりと明らかに只者ではない者達がいた。その男こそまさに。
「武田信玄・・・・・・!」
「後ろにいるのは二十四将か」
「そして真田幸村もいるではないか」
一人の若武者も目立った、彼もいた。
「まさか武田信玄が自ら出て来るとは」
「一体何が起こるのだ」
徳川の者は皆寒気さえ感じていた、死への危機だけでなく信玄の発する凄まじいまでの威圧感を前にしたからだ、その威圧感は一万二千の徳川軍を一人で圧倒していた。足軽の中には足がすくんでいる者すらいた。
飛騨者達もだ、信玄を見て彼から目を離せず話をした。
「武田信玄かよ」
「凄いね」
大蛇も凄まじい気を感じながら煉獄に応える。
「甲斐の虎、圧倒的だね」
「戦の時のうちの殿様に匹敵するな」
「気の大きさがね」
「まさに虎だぜ」
煉獄は額に汗を浮かべていた、そのうえで必死に笑みを作って言うのだった。この笑みは意地の笑みだ。
「虎の中のな」
「虎の王だね」
「ああ、そうだよ」
まさにそれだというのだ。
「こりゃ下手な小細工はな」
「通じないでやんすね」
煙も困った顔で言う。
「茶に毒を入れるだの吹き矢だのは」
「ああ、わし等はそういうものを使う忍じゃないがな」
それでもだとだ、煉獄は煙にも言葉を返した。
「そういう小細工の通じる相手じゃねえ」
「戦って倒すしかないでやんすね」
「倒せればな」
それが出来れば、というのだった。
「まあ倒すことはな」
「今は無理だ」
拳も必死に信玄の威圧感、そして武田軍の凄まじい気に対している。そのうえで言うのだった。
「到底な」
「ああ、もうここはな」
「徳川殿をお守りしよう」
「何としてもな」
こう話すのだった、一騎当千の彼等ですら信玄の気には圧倒されていた。そこに武田の軍勢四万五千も加われば尚更だ。
徳川の者達は既に蒼白になっている、その彼等にだった。
悠然と姿を現した信玄はこう言った。
「徳川家康はおる
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