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戦国異伝
第百六十九話 三方ヶ原の戦いその一
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               第百六十九話  三方ヶ原の戦い
 家康は必死に武田を追っていた、それは彼が率いる徳川の軍勢も同じだった。徳川家のほぼ全ての軍勢で追撃を仕掛けている。
 その中でだ、家康はこう言うのだった。
「よいか、武田軍を見付けたならな」
「はい、その時はですな」
「一気にですな」
「後ろを衝け」
 武田軍のそこをだというのだ。
「そして一気に食い破るぞ」
「殿、地の利はこちらにあります」
 ここで言うのは石川だった、家康も主だった者達も皆馬に乗っている。足軽達もその足はかなり速くなっている。
「ですから」
「うむ、数はあちらが多いがな」
「勝てまする」
 こう家康に言うのだった。
「ですからここは」
「臆することなくじゃな」
「一気に進み」
 そしてだというのだ。
「武田の背中を叩き切ってやりましょうぞ」
「その通りじゃ。ではこのまま進む」
「はい」
「殿、武田の動きですが」
 今度は榊原が来た、駆けて家康の横に来た。
「三方ヶ原に入る様です」
「あそこにか」
「はい、その様です」
「ふむ。三方ヶ原ならな」
 そこならばだとだ、家康は榊原の話を聞いて言った。
「戦い方がある」
「そこに武田が入ったところで」
「そうじゃ、あそこの坂の上からな」
 台地である。上に上がらなくてはならない。だからだというのだ。
「一気に前に進み後ろから衝くぞ」
「では坂は一気に登り」
「うむ、武田はその頃我等の前にいる」
 台地への坂を登った彼等の前にだというのだ。
「一気にその後ろを攻めるぞ」
「わかりました、では」
「皆の者送れるでないぞ」
 自ら馬を駆けさせてだ、家康は兵達にも告げた。
「ついて来れなかった者はおるか」
「いえ、おりませぬ」
 酒井が答えてきた、このことについては。
「一人も」
「そうか、皆来てくれておるか」
「我等徳川の兵はこの程度どうということはありませぬ」
 三河武士は強い、その強さは足の強さにも出ているのだ。だから今の様にかなりの勢いで長い間駆けてもなのだ。
「遅れるということなぞ」
「わしはよい家臣を持っておるな」
「そう言われると照れまする」
「ははは、顔が赤うなっておるぞ」
 家康は笑って応えた酒井に自らも口を大きく開いて返した。
「黄色い具足の下が真っ赤じゃわ」
「武田の赤ですな」
「そうじゃな、これはまた面白いわ」
「ではその赤の武田を」
「思い知らせてやろうぞ」
「そうですな。それでは」
 こう応えてだ、酒井も馬を進める。徳川家は凄まじい勢いで武田を追っていた。
 その中には飛騨者達もいる、その中でだった。
 鞠がだ、その巨体を揺らしながら駆けつつからくりに尋ねた。
「ねえ、からくりはどう思うかな」
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