覇王と鳳が求めるも麒麟に首は無く
[1/20]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
何故、我らが主が苦しまねばならなかった。
何故、我らが主が消えなければならなかった。
我らは彼のようになる為に強くなった。
我らは彼と共に守りたかった。
我らは彼の事を助けたかった。
我らは……彼と共に戦いたいのだ。
戦わせてくれ。守らせてくれ。想いを繋がせてくれ。願いを叶えさせてくれ。
心より湧き上がる渇望は、もはや止められるわけがない。
誇り高き彼のようになりたいが為に、そうあれかしと想い続けたのだから。
優しく厳しく、強くて弱い彼に、自身の全てを捧げたのだから。
我らは何ぞや。
道を示したのは誰か。
想いを繋ぐとは如何様なモノか。
そうだ。彼が居なくとも、彼の想いは我らの胸に。
我らは彼と共に。彼は我らと共に。
そして……あの小さき少女だけは、彼が戻るまで守らねばならない。
守り抜く事こそ、我らが彼と共に想いを繋ぐという事。だから、それまでは……
†
龍の逆鱗、虎の尾……怒りを呼び起こすモノには様々な呼び名があるが、触れられた踏まれたと言い表せ無いほどに、その時の曹孟徳―――――華琳は激昂の極みに居た。
華琳は激発する事もある。しかしそんな自分を冷静なもう一人の自分が見つめている事が多く、本当の意味で怒りに身を染め尽くすような事態は今まで無かった。
わなわなと震える手は……感情のまま、軍議場の机に叩きつけられた後。
徐州大乱の最中、城で待機していたはずの三角帽子の少女が訪れて言った一言は、華琳の心をたった一つの感情に染め上げていた。
「もう一度……言ってみなさい」
凛と透き通っていながらも、春蘭も、霞も、季衣も、その場にいる武勇を馳せる誰しもが震えあがる程の声。
最愛の恋人が消えてしまったかのような、自身を産み落とした親を亡くしたかのような、重く、冷たい寂寥をも孕んだその激情の刃が見え隠れする声は、容赦なくその原因を発した者を切り捨てようかと……周りにいる臣下達はそのように感じた。
されども、目の前にいる人物はなんの事は無いと顔を上げて華琳を見つめていた。翡翠の瞳は変わらず、凍るように冷たく、昏い色を携えている。
「……徐公明は記憶を失いました」
零された言葉に次いで、ギリと歯を噛みしめる音が鳴る。周りに控える部下の全ては、叩きつけられる膨大な圧力に思わず声を上げそうになるも、今何かすれば首を飛ばされるやもしれないと、声も出せず動くにも動けなかった。
春蘭や霞ですら息を呑むほど、華琳は感情を押し留める事が出来なかった。
桃香への嫉妬は……確かにあった。それを上回ったのは、地位も名声も親族が作り出してきた繋がりも無い状態での自身の姿
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ