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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第93話 高貴なる魔術師
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り火の炎が消えた瞬間、世界は次第に大晦日……このハルケギニア世界の十二月(ウィンの月)最後の日(ティワズの週、ダエグの曜日)に相応しい色と、季節を取り戻して行った。

 しんと冷えた大気。静寂が支配する冬枯れの森。そして、俺たちの頭上には、何時の間に広がったのか灰色に濁った氷空(そら)から――
 そう。一年の締めくくりに相応しい白い使者が、普段よりは幾分暗さを増した氷空からゆっくりと舞い降りて来たのだ。
 先ほどまで繰り広げられていた異世界の戦いの場には相応しくないただの雪。雲の中の水分が結晶化した物。この冬至の……そして、次の一年の始まりに相応しい色に染めて行く氷空からの白い使者。

 彼女が、氷空に向けてその白い華奢な手の平を広げた。
 その手の平の上にそっと舞い降り、そして儚く消えて仕舞う氷空からの御使い。

 視界を徐々に埋めて行く白。その世界の中心に佇む蒼い少女。完全な黒に包まれている訳ではない薄い墨の如き闇と儚く消えて行く白い雪。更に、彼女独特のペシミズムと言うべき雰囲気が相まって、じっと見つめているだけで何故か……。

 涙が込み上げて来る。そう言う考えが浮かび、そして、もう一度、彼女を見つめ直す俺。
 何故かこの場に居るのが彼女……タバサである事に対する違和感。まるで、かつて同じようなシチュエーションを別の誰かと経験した事が有るような気も……。
 吐息を白くけぶらせ、彼女が俺を見つめた。いや、見つめ返した。

「すまなんだな、タバサ」

 ゆっくりと彼女の傍に歩み寄りながら、そう話し掛ける俺。そして、彼女の手を包み込むように、そっと握る。
 小さく華奢な彼女の手は、普段以上に冷たかった。

 しかし……。

「問題ない」

 ゆっくりと首を二度横に振った後、彼女は普段通りの答えを返して来た。
 そう、普段通りの彼女の答え。其処には感情の起伏を感じさせない、ただ言葉の響きが存在するだけの答えが有った。
 但し、おそらく彼女は俺が謝った本当の意味に気付いてはいない。俺は彼女が寒さに晒されていた事に対して謝った訳ではない。
 俺が謝った理由は……。

「父の死の真相は、ガスコーニュ地方の反乱を陛下に伝えようとして暗殺された。この事実だけで充分」

 アルマンを生きて捕らえた上で、ヤツから色々な情報を聞き出したかった。そう思考を巡らせた瞬間、その考えを遮るかのように、タバサがそう言った。確かに、ガリアが発表した内容はオルレアン大公に悪い評価が残るような物ではなかった……のですが……。
 ただ……。

 晴れ渡った氷空に等しい瞳で俺を見つめる彼女。其処に後悔の色はない。無念の死を遂げた自らの父親の事を話すにしては、あまりにも透明過ぎる表情。
 ただこの部分に関しては、知り過ぎて
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