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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第93話 高貴なる魔術師
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間内に存在した二人の影と残り香のみ。

 彼我の距離は十四、五メートル。タバサは俺の後ろを追走中。この距離ならば、現実の時間では一瞬。俺の体感時間でも三手ほどの短い時間。

 魔物……吸血鬼の周囲に浮かぶ魔術回路が回転を繰り返し、活性化した小さき精霊たちが蛍火のように光りを放ちながら乱れ飛ぶ。
 そうして、苛立ちが募ったように吸血鬼ヨナルデパズトーリが咆哮した。

 彼我の距離は十メートル前後。その瞬間、俺、そしてタバサの周囲に防御用の魔術回路が発生し、同時に身体に施された神明帰鏡符が一枚剥がれ落ちる。

 刹那!

 仮面の吸血鬼周囲に浮かび、ゆっくりと回転を続けていた魔術回路がぐにゃりと歪み、そして次の瞬間、完全に消えて仕舞う。
 同時に異様な音と共にヤツの両腕の骨が砕け、肉が潰れ、裂けた皮膚からは赤黒い、血液とも、それ以外の何かとも付かない液体が噴出して来る。

 しかし!

 更に苛立ったような咆哮を上げ、小五月蠅げに両腕を振る魔物。たったそれだけの事で、まるで時間を逆回しにしたかのように完全に潰れて仕舞った腕は、元通りの逞しい人間型の腕へと戻って仕舞う。
 その瞬間に、周囲からすべての精を吸い上げ、ヤツを中心とした空間すべてを死と静寂が支配する空間へと変化させた。
 そう。例えヤツが動く度に体液や魔力を体外にいくら撒き散らせようとも、そんな物はヤツに取って蚊が刺した程度の事。本人は痛手とすら感じていないでしょう。
 但し、この魔法反射が産み出した時間は貴重。俺の剣の間合いまで後三歩。
 ここまで接近されて新しい術を行使するのは難しい。ここで咄嗟に魔術を起動させても、効果を現す前に、俺とタバサの剣がヤツを刺し貫いて居る。

 そう考えた刹那。先ほど振り払われた状態のままにされていた魔物の右腕が、俺とタバサに向けて無造作に振り抜かれた!
 その勢い、更に破壊力は正に神の領域。その右腕が作り出す衝撃波だけで、人間など容易く粉微塵にされて仕舞うであろう。

 だが、しかし!

 次の瞬間。赤黒い体液を撒き散らせて千切れ、後方に向けて跳ぶヤツの右腕。魔術師の証、そして防寒用のマントに赤黒い斑点が付き、顔や蒼となった髪の毛を穢されて行く。
 同時に、効果を発揮した物理反射の呪符と呪詛防止用の呪符が身体から剥がれ落ちた。
 流石は破壊神の一顕現。元々人間でしかなかったアルマンの血液を、何か別の物……人を簡単に穢し、呪い殺す事の出来る呪物と変えて体内を巡らせているらしい。

 しかし、そんな事は最初から想定内。後、残り二歩!

「我、世の理を知りて防壁を断つ!」

 半身に構えた俺の右手の先に光が収斂して行く。但し、これは一気に爆発させる為の収斂ではない。
 闇を斬り裂くように下段からの抜き打
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