第5章 契約
第93話 高貴なる魔術師
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力……テスカトリポカの本体が存在する魔界より供給され続ける黒き魔力が凝縮されて行き――
流れるように揺らめくは繊手。囁かれるは愛の言葉に非ず。蛍火のような淡い輝きに包まれた少女が、彼女に相応しい見た目は緩やかな……。しかし、現実には非常に素早い動きで口訣を唱え、導印を結ぶ。
刹那。両断されたデッドコピーが大地に倒れるよりも……。いや、回復を開始するより早く発動する仙術。
そのクトゥルフ神話に語られるグールに等しい魔物の周囲に舞う白い輝き。
魔物の上下に発生した魔術回路。ふたつの円がそれぞれ逆方向に回転する度に、複雑な幾何学模様をその内側に描き出し、発光するほど活性化した小さき精霊たち……彼女の行を指し示す水の精霊たちが包み込んだ次の瞬間。
白き……氷の彫像と化して仕舞う魔物。
そう、ただでさえ今宵は冬至の夜。周囲の大気は凍え、普通の人間ならば凍死したとしても不思議ではない気温下での戦闘。こう言う時は冷気・凍結系の仙術の効果は普段以上に大きく成る。
「今、アルマンを乗っ取って顕現しようとしているのは、その中でも小物。テスカトリポカの吸血鬼としての相ヨナルデパズトーリ」
人気のない夜の森に響く斧の音。皆が寝静まった夜中に木の根元に斧を振り下ろすような音が聞こえ、騒音の原因を調べようとした者の前に、首の無い朽ち果てた死体の姿として現れるとされる魔物。
但し、古い世界を滅ぼし、新しい世界を創造すると言われているテスカトリポカの相の中ではコイツはかなりの小物。おそらく、召喚しようとした人物の召喚士としての力量と、その贄の質に因って、この程度のヤツの顕現で納まってくれたのでしょう。
もっとも、この程度……と考えなければ、とてもでは有りませんが戦える訳は有りませんから。
僅かな氷の欠片を撒き散らしながら、その場に倒れ込む氷の彫像。
俺の目から見るとゆっくりとした動作で。しかし、普通の人間から見ると神速に分類される速度で左右から挟み込むように接近するデッドコピー……テスカトリポカの眷属グールを一閃。左から右に抜ける光の断線で、上半身と下半身を分離させて仕舞う。
そして、その次の瞬間には、先ほどと同じ要領で、四つに分かれた身体のパーツをすべてタバサが氷の彫像へと変化させて仕舞った。
雑魚を相手にするのは、俺とタバサならばまったく問題がない雰囲気。氷の彫像化された連中に関しては、この戦いの後に一気に浄化すればそれだけで事が足りる状態。
しかし――――
元アルマンの魔物――いや、吸血鬼ヨナルデパズトーリが再び咆哮を放った。まるでいくつもの違う声……人間や獣の声を複数重ねたかのような、複雑で分厚い響き。魂を揺さぶる、生命体の持つ根源的恐怖を感じさせる異世界の歌声。
その声が響く
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