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トワノクウ
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第二十八夜 赤い海(一)
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ってるの? くうはほんとに潤君を助けに行きたいの?)

 火花のように何度も何度も、あの夜の記憶が爆ぜて消える。
 くうは強く自身を抱く。息が苦しかった。

(潤君なら大丈夫だよ。あんなに、あんなに強いんだから)

 思考がじわじわと楽なほうに傾いていく。

(今の私は天座にいるんだから、天敵の坂守神社に行くなんてだめだよ。梵天さんも露草さんもきっと嫌だよ)

 自分を逃がす理由が浮かぶほどに心が二つに裂けてゆく。

(分からない……誰か、私がどうすればいいのか教えて)

 涙が流れないのに変な声だけ落ちた。


「くう! 大丈夫か!?」

 誰かの声が後ろから追ってきて、誰かの手がくうの背に添えられた。

「露草さん……っ」

 くうが飛び立って落ちたところを見て駆けつけてくれたのだろう。
 気遣ってくれる露草に、くうは飛び付いて甘えたかった。無理しなくていい、行かなくていい、と言ってほしかった。その行為が孕んだ浅ましさに気づかなければきっとそうしていた。

「くう」

 上からの低い声に顔を上げる。塔から出てきた梵天が、静かにくうを見下ろした。

「行くのかい?」

 ああ、彼は分かっているのだ。くうが露草に選択を丸投げしようとしたことを。
 だからこうして、くう自身の意思を言わざるをえない問い方をして、くうの甘えを封じたのだ。

「――たい、です。逢いたいです。潤君に逢いたいんです!」

 くうは恐怖に裂かれながら自らの恋心を選んだ。


 梵天は微かに痛ましいものを見る目をしたかと思うと、くうの肩に腕を回して自身の胸に引き寄せた。
 驚くくうの上から、降る雨のようにその声は聞こえた。

「君がそう望むなら」

 肯定しているのにまるで苦渋の決断を下すように聞こえて、くうは急に申し訳ない心地になった。

「どうして……ここまで良くしてくれるんですか?」

 露草を目覚めさせるための白鳳なら、くうにはもう利用価値がないはずだ、とくうは己の感情を全く埒外にして考えた。

 梵天は自嘲に近い微笑を浮かべる。その目が、くうを通してくうではない誰かを見ていた。

「君は俺の姉の一人娘だからね」

 くうの心臓の近くがじくりと痛んだ。

 やはりくうは先人の残したものに頼らなければ何もしてもらえない程度の人間なのだ、という気持ちが強まった。

(篠ノ女空はカラッポ。つまらない、何も持たない子)

 くうは祈るように胸の前で手を握る。

「ありがとうございます……」

 こんなに弱々しい礼を言ったのは初めてだった。







 くうは自力で空を翔け、空五倍子が梵天と露草を乗せ、彼らは坂守神社を目指していた。
 近づ
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